第202回(2009.01.20)
組織的プロジェクトマネジメント成熟元年

◆PMI(R)、4つの標準を一斉発表!

2008年末、PMI(R)(米国プロジェクトマネジメント協会)の4つの標準が一斉発表された。残念ながら日本語版はその時点では未発表。3月になるという噂だが、これはおそらく多くの人が思っている以上に意味のあることだ。

まず、4つの標準とは何かを確認しておこう。

 PMBOK(R) 第4版
 プログラムマネジメント標準 第2版
 ポートフォリオマネジメント標準 第2版
 組織的プロジェクトマネジメント成熟度モデル(OPM3(R)) 第2版

の4つである(これらはすべてPMI(R)の登録商標)。

なぜ、意味があるか?版数をみて貰えばわかるように、今までもこれらの標準はあった。

 PMBOK(R) 第3版 2004
 プログラムマネジメント標準 第1版 2006
 ポートフォリオマネジメント標準 第1版 2006
 OPM3(R) 第1版 2003

に発表されている。


◆OPM3(R)第1版の謎

問題はOPM3(R)である。

以前このメルマガでPMアソシエイツの鈴木さんの連載をやっていたので、ご存じの方も多いと思うが、OPM3(R)は、プロジェクトマネジメント、プログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントに対して、PMI(R)の提唱する標準プロセスごとに、プロセスの成熟度レベルに対するベストプラクティス、ケイパビリティ、KPIなどを整理したものである。

ところが、発表年度をみてみるとわかるように、OPM3(R)の第1版が発表されたのは2003年であり、PMBOK(R)こそあったものの、ほかの2つの標準は存在しなかった。

では、なぜ、OPM3(R)を策定できたのか?それは、プログラムマネジメント標準やポートフォリオマネジメント標準はプロジェクトマネジメント標準と同じプロセスであると仮定されていたからだ。実際にこの2つのプロセスはプロジェクトマネジメントプロセスとも違うし、それぞれが違うものになった。

ということで、実際にプログラムマネジメント標準やポートフォリオマネジメント標準と整合しないものになってしまっている。

誤解のないようにいっておくが、だからといってOPM3(R)が意味のないものだということにはならない。読み替えていけば十分に使えるし、そもそも、規定しなくても十分に役立つ内容が記されている。例えば、日本プロジェクトマネジメント協会のP2Mという標準があるが、これを念頭において読んでみても十分に役立つ内容になっている。


◆成熟度元年、ロードマップを作ろう!

さて、という状況から、2008年末を持って、4つの標準がすべて同時に見直しされ、整合された。それが意味があると言っている点。

まさに2009年はプロジェクトマネジメントの成熟度元年になるのだ。多くの企業が、OPM3(R)やPMBOK(R)4版、プログラムマネジメント標準、ポートフォリオマネジメント標準をみながら、組織全体として整合のとれたプロジェクトマネジメントを行なうためのツールが整備され、スタート地点にたった。

では、今、すべきことは何か?組織のプロジェクトマネジメント成熟度を向上させていくロードマップを作ることである。


◆OPM3(R)で組織に潜むプロジェクトマネジメントの無駄をとる

世の中は今、「未曾有」と言われる不況である。ろくなニュースがない。この中で、役所の無駄遣いが指摘されている。無駄遣いがあるかどうかは調べたわけではないのでわからない。しかし、指摘されているような「構造」の無駄遣いがあるとすれば、まったく役所だけの問題ではないことは確かである。

二言目には、「民間は血のにじむような努力をしているのに」と役所を批判するニュースキャスターがいるが、ちょっと待ってほしい。確かに現場は血のにじむようなコスト削減の努力をしているし、事業も無駄をなくす懸命の努力をしている。スタッフ部門もなんとか低コストでサービスを提供しようと躍起になっている。

しかし、役所の無駄というのはこういう類のものではない。組織構造に潜む無駄なのだ。だとすれば、民間身業にもたくさんある。ほとんどの日本企業はそのような無駄を抱えていると言っても過言ではない。この無駄をとるのは経営の本来の役割なのだが、残念ながら経営が全体観があるとは言い難い企業が多い。

製品開発プロジェクトでいえば、技術開発、製品開発、マーケティング、生産とそれぞれが努力しており、最適化されているが、部分最適であり、全体最適にはなっていない。つまり、組織構造に潜む無駄がある。そこに着眼したTOCのような改革手法も登場しているが、まだまだ、不十分である。この無駄というのは、役所に潜んでいるといわれる無駄と全く同質なものだ。

ここに気づいて手を打っているのはほとんどグローバル企業である。グローバルな競争を勝ち抜くにはこの無駄を無視できないからだ。

この無駄を体系的にとることがプロジェクトマネジメントの組織成熟度の向上にほかならない。そのためのツールがOPM3(R)であり、それを今、我々は手にしたわけだ。このツールを援用しながら、組織に潜む無駄をとっていくことこそ、最大の不況克服策である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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