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第201回(2009.01.20)
改めて考える!プロジェクトとは何か? |
◆プロジェクトの定義と特性
前回、200回ということで今までのプロジェティスタの話を一時休止し、サスティナブルなプロジェクトマネジメントという記事を書いた。今回は200回記念の続きで、この6年くらいやってきたプロジェクトマネジメントの活動とは何だったんだろうということを考えてみたい。
最初に復習。米国プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute)の提唱するPMBOK(R)(Project
Management Body of Knowledge)がこの数年間、話題の中心にあったことは間違いない。世界のトレンドに比してどうだという議論は別にして、とりあえず、日本企業はSI業界を中心にPMP(R)(Project
Management Professional)資格保有者を2万人以上排出し、世界で何番目かの国になった。
そのPMBOK(R)ではプロジェクトを
独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務である
と定義している(PMBOK(R)ガイド5ページ)。そして、プロジェクト活動の持つ特性として
(1)有期性
(2)独自のプロダクト、サービス、所産
に加えて、3つ目の特性として
(3)段階的詳細化
という特性があると指摘している。段階的詳細化とは「ステップを踏んで開発し、増分となる内容を追加しながら継続することを意味する」(PMBOK(R)ガイド6ページ)とされている。
◆プロジェクトが先か、プロジェクトマネジメントが先か?
日本で21世紀に入った直後から起こったプロジェクトマネジメントブームを振り返ってみて、未だに疑問なのは
プロジェクトというワークスタイルを導入したかったのか、プロジェクトマネジメントを導入したかったのか
ということだ。もちろん、この問いの立て方には自己矛盾がある。プロジェクトがないのに、プロジェクトマネジメントを行うということはありえないからだ。しかし、現実にはそれに近いことが起こっている。つまり、プロジェクトではない活動にプロジェクトマネジメントを適用しようとしている。
この証拠はある。この2〜3年、プロジェクトマネジメントの分野で、マネジメント重視(ヒューマンスキル重視)が起こっている。PMBOK(R)を導入してみたが、不十分なので、やっぱり人間系が大切だという話だ。
当たり前だ。このような方向性を打ち出した多くの企業がやろうとしていることは単なる「マネジメント」の導入である。つまり、プロジェクトマネジメントを導入してきたが、うまくいかない。そこでいろいろ考えたが、やっぱり人のマネジメントが重要だという結論に至りその方向に向かっているという話だ。この議論は議論に値しない。プロジェクトではないのだから当たり前の話だ。
もちろん、このようにいうと、多くの企業の人たちはプロジェクト活動をしていたのでプロジェクトマネジメントを導入したのだという。SI企業が典型だろう。納期はあるし、一つ一つのシステムはすべて異なり、同じものは一つとしてない。そして、要件定義、基本設計、詳細設計、製造と徐々に仕様を詳細化しながらプロジェクトを進めていく。これはプロジェクトそのものではないかという言い分である。
◆有期性とは納期ではない
このような言い分には違和感がある。最大の違和感は、有期性を納期だととらえることである。どんな仕事にも締め切りはある。当たり前の話だ。有期性という考え方は、定常業務との比較を考えてみないと意味がわからない。ビジネスは継続することが最大の目標である。少なくとも10年前まではそうだったし、今でも本質は変わらない。
プロジェクト業務という考え方は旧来のビジネスの目標に対する一種のアンチテーゼである。短期的な目標を設定し、目標が達成できれば終わる。その代わり、その間は高いパフォーマンスを発揮し、継続に等しい利益を上げる、事業の中にはそういう多様なワークスタイルが必要なのではないかというのが有期性の持つ意味である。
SIプロジェクトでは一般には納期と目標が一体化しているので納期があることが有期性だと考えるし、ここに「契約」という要素が入り込んでくるので話はいっそう複雑になっているが、本質的には有期性と納期は別である。これは計画通りにプロジェクトが進まないケースを考えてみるとよくわかる。たとえばSIのプロジェクトを考えてみよう。納期、つまり、顧客にとって発注したシステムを利用したい時期(準備期間も含めて)が来た。ここで顧客の判断は2つしかない。供用を開始するかしないかだ。その意志決定は何に基づいて行われるか。プロジェクトの目標の達成度である。計画通りにことが進んでも目標が100%達成できるというケースは稀有なので、その時点でどのくらいの目標を達成できているかというのは常に焦点になる。ただ、ここに契約が入ると、目標の一つに「契約が履行されているかどうか」という要素が入ってくるので、納期というのがクローズアップされる。
◆成果物を目標にすると段階的詳細化は成り立たない
以上のような構図の中で、多くのプロジェクトは目標の設定が明確にされていない。
もっと正確にいえば、成果物を持って目標としていることが多い。要するに形の上ではいろいろと取り繕うが、できるまでやるって話だ。これではプロジェクトとはいえない。
ついでにいえば、このような目標設定は矛盾がある。成果物(仕様)はステップを踏んで決めていく。これが段階的詳細化だが、目標=成果物だとすれば、初期の段階ですべて成果物の仕様がすべて決まっている必要がある。要求マネジメントと称してこのような方向に進んでいる組織が多い。この方向性自体は正しいが、これではプロジェクトも目標を作らないままに進めていくことになり、有期性を失うということになる。
このようにプロジェクトといって行っている業務は実は目標の取り扱いでプロジェクトではないケースが少なくない。そのような業務に対して、プロジェクトマネジメントを適用するというのはあまり意味のないことだ。
◆PMBOK(R)の中から必要なマネジメントだけを選ぶ落とし穴
蛇足だが、PMBOK(R)の一つの罪は、非常に複雑なマネジメント体系で、ドキュメントも複雑である。ただ、標準として策定されているものなので、その中から必要なものだけを選んで適用すればよいということを堂々と言っていることだ。このこと自体が間違いだとは思わないが、マネジメントをきちんとしない方便になっていることは否めない。プロジェクトをPMBOK(R)が定義しているようなものであると考えるのであれば、やらなくてよいことなど、ほとんどない。そこで、プロジェクトの定義そのものを曖昧にし、そのプロジェクトに対してPMBOK(R)を部分的に適用するといった方便を弄しているのであれば、これは改めるべきだろう。
PMBOK(R)のプロジェクトマネジメントはうまくないといっている組織はまずこの点を考えてみてほしい。もちろん、プロジェクトとして業務を行うことがすべてではない。戦略によって適切な業務の行い方はいくつか考えられる。プロジェクトはその一つの手段に過ぎない。そうであれば、プロジェクトという言葉は引っ込めた方が賢明だ。
戦略ノートの問題意識は、プロジェクトマネジメントをどう行うかではなく、プロジェクトをプロジェクトとしてきちんと運用していくためにどうするかである。今後もこの方針は変わらないが、200回を迎えて、改めてプロジェクトとは何かを考えてみた。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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