第181回(2008.05.06)
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(8)
〜実行の視点からのプロジェクトの評価

◆戦略だけではなく、経営視点からの評価も必要

前回、前々回と、プロジェクトの評価視点として、ビジネスと財務的視点からの評価について説明した。戦略的な視点からはこの2点は重要であるが、「経営的」な視点からこれらより重要なのが3番目の実行という視点からの評価である。

実行視点からの評価は、平たく言えば、そのプロジェクトを実行する能力を持ちうるかどうかという評価である。たとえば、

・コンピテンシー
・ケイパビリティ
・リスクの程度
・資源の利用可能性

などがある。

まず、最初2つであるが、これは、第174〜177回で議論してきたことである。当然のことながら、現状の能力でそのプロジェクトが実施できるに越したことはないのだが、無理ならやめるということだけが選択肢ではない。

第174回(2008.01.29)組織が行うべきプロジェクトマネジメント(1)〜責任のフレームワーク

戦略上必要であれば、これらの能力開発をしながらプロジェクトを進めていくという判断をせざるを得ないケースも少なくないし、そもそも、コンピテンシーやケイパビリティはプロジェクトだけのもので評価すべきかどうかという議論もある。

その際に問題になってくるのが、「リスクの程度」である。仮に、現状能力は不足するが、プロジェクトは実施すべきであるという判断をした場合には、それがどの程度のリスクをもたらすのかを適切に判断する必要がある。


◆資源の利用可能性も重要

さらに、考慮しなくてはならないのは、資源の利用可能性である。組織としてできるかどうかと、ある時点で現実でできるかどうかは別の問題である。プログラムマネジメントの最重要課題の一つがリソースコンフリクトの解消であることからも分かるように、プロジェクト評価時点でのリソースの利用可能性については適切な判断が望まれる。間違っても、どうせ他のプロジェクトがどうなるかわからないので、今の時点で考えてみても仕方ないなどとは考えて実施することとし、無計画にアウトソースに頼ることがあってはならない。
特に、IT業界では、資源を制約条件にしない経営というのが目立つ。つまり、組織がどれだけのリソース(特に人)を持っているかに関係なく事業を進めていくようなやり方である。特定の時期の戦略としてはありだと思うが、ITもものづくりであるので、企業の恒常的な経営戦略としてはどうかと思う。このあたりの戦略もしっかりと踏まえて、プロジェクトの評価をしていくべきだろう。


◆最後は経営的決断

ということで、3つの視点からのプロジェクトの評価について述べてきたが、最後に重要なポイントを指摘しておきたい。

今回、説明した実行視点というのは経営視点からの判断としては重要なものであるが、経営視点というときに忘れることができないのは、「経営的決断」である。つまり、プロジェクトを3つの視点から評価するのはいいのだが、最終的に、それによってそのプロジェクトの実施、中止が自動的に決まるという経営システムはあまり現実的なものではない。実際にそこには経営的な決断が不可欠である。経営的な決断がないプロジェクト実行はコミットメントの低さから好ましいものとはいえない。本当に必要な決断はもちろんだが、儀式的な決断でもすべきである。プロジェクトを実施するということはそのくらい重いことだと組織に周知することがプロジェクトの成功の第一歩であるといってもよい。

「経営的決断」としてプロジェクトに大きな影響を与えるものには

・エグゼクティブ(役員)の総合的な判断
・業務上の必要性
・競争上の必要性
・法的な必要性

といったことがある。これらを勘案して、最終的な決断をする必要がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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