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第180回(2008.05.02)
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(7)
〜財務視点からのプロジェクトの評価・選定 |
前回はビジネス視点からのプロジェクトの評価・選定について説明した。今回は、財務視点からのプロジェクトの評価について説明する。
◆ベネフィットコスト分析
プロジェクトの財務評価の視点の中で、もっとも基本的であり、一般的なのがベネフィットコストという視点である。これは、プロジェクトの成果物を生み出すコストが、プロジェクトの実行によって生み出される効果より小さいか大きいかで、プロジェクトを評価する方法である。もちろん、コストが小さければよいプロジェクトということになる。
ここでコストとは何かということを整理しておきたい。SIのプロジェクトを例に取ると、要件分析(市場分析)の費用、設計費用、ディベロップメントの費用、テストのための費用、瑕疵担保期間のサポート費用などがまず、思い浮かぶだろう。ここで上に述べたスコープの問題が出てくる。このプロジェクトのスコープが営業からであれば、営業コストが含まれてくるし、開発後の運用・保守が含まれれば、運用・保守作業のコストが生じる。
これに対してベネフィットはこのプロジェクトを実施することにより生まれる効果である。このプロジェクトが受託開発のプロジェクトであるならば、受託開発収入が効果として生まれる。また、運用保守でも受託収入が効果となる。
仮に、顧客に引き渡さずに、ASPのような形でシステムを使ってもらい、その対価をサービス料として取るのであれば、サービス料が効果となる。
これらを総計して、たとえば、
営業、開発、運用にかかるコスト 800万円
開発、運用の売り上げ 1000万円
であれば、このプロジェクトは正しいプロジェクトであると評価できる。
では、、システムのライフサイクルを5年として、年間200万円でサービス提供するとしよう。この場合は、どのように評価すればよいか?
◆ペイバック
ここでまず、問題になるのはペイバック(回収)である。厳密に言えば少し違うが、一応、このシステムでサービス提供するまでに800万円の投資をすることになる。
そしてこの投資に対して、キャッシュインフローが年間200万円であるので、800万円の投資は4年間で回収できることになる。したがって、このシステムのライフサイクルが5年であれば、初期投資は回収できることになる。
初期投資 800万円
キャッシュインフロー 200万円/年
回収期間 4年間
◆DCF(Discoounted Cash Flow)
ところが、通常は利子が発生するので、その分だけは、価値から割り引いて考えなくてはつじつまがあわなくなる。つまり、回収期間が4年のプロジェクトであれば、4年間で受け取るキャッシュフローの合計は、現在、受け取るものより少なくなる。
例えば、利子率が10%だとすると、現在の800万円は
800万円×(1+0.1)**4=1171万円
の価値となる。一般的な計算式は
FV=PV(1+r)**n
FV:将来価値、PV:現在価値、r:利子率、n:期間
である。
DCFでは、プロジェクトのキャッシュフローの将来価値を現在価値を比較する。
プロジェクトの投資評価をするには、システムのライフサイクル期間を考慮した現在価値が問題になるが、現在価値は上の式を変形して
PV=FV÷(1+r)**n
となるので、将来価値1000万円に対して、
1000万円÷(1+0.1)**5=621万円
で、621万円の価値しかない。したがって、このプロジェクトへの投資は見合わせるべきだという結論になる。
◆NPV(Net Present Value)
さて、情報システムの開発プロジェクトの場合でも、その期間が3年とか4年にわたる場合がある。また、上の例のようにアウトソーシング系のプロジェクトの場合は、ライフサイクル全体をひとつのプロジェクトを見る必要がある。当然、長期間のプロジェクトになる。このような場合、単に、プロジェクト全体としてキャッシュフローを考慮するだけでは不十分である。トータルのキャッシュフローは大丈夫でも、途中でキャッシュフローが停滞してしまう可能性があるからだ。
そこで、単にプロジェクト全体でのインフローを抑えるだけではなく、プロジェクトの現在価値を考えていく必要がある。つまり、将来得られる収入を現在の金額に置き換える。プロジェクトへのファイナンスの基本データとなるこの評価価値を、正味現在価値(Net
Present Value;NPV)という
NPVの計算方法であるが、考え方はDCFと同じである。DCFでは、プロジェクトの合計収入に利子率を適用して割引を算出していたが、NPVでは、合計収入ではなく、それぞれの期間(通常、四半期〜1年)に計画されるインフローを割引することで、キャッシュフローの現在価値を評価する。そこから、初期投資を引いたものがNPVとなる。
DCFの例をもう一度、思い出してほしい。ライフサイクル5年間のシステムを800万円で開発し、ASP提供し、年間200万円の収入を得るという例である。
利子率は10%である。これに対して、まず、年次のインフローとPVは以下のようになる
インフロー PV (金額の単位は万円)
1年目 200 182
2年目 200 165
3年目 200 150
4年目 200 137
5年目 200 124
合計 758
つまり、このプロジェクトの現在価値の合計は758万円である。これに対して、初期投資は800万円であるので、NPVは
NPV=758−800=−42(万円)
となり、このプロジェクトには投資すべきではないことが分かる。
ここで、もう一つのパターンとして、初年度、ASP初期費用として500万円を受け取り、その後、5年間100万円でASP提供するとしよう。すると、今度は、年次のPVは
インフロー PV (金額の単位は万円)
1年目 600 545
2年目 100 83
3年目 100 75
4年目 100 69
5年目 100 62
合計 834
となり、NPVは
NPV=834−800=34(万円)
となる。今度は、投資してもよいプロジェクトということになるのだ。この2つのケースはプロジェクト終了時点でのキャッシュインフローは、1000万円で同じであり、DCFでプロジェクト価値を求めると、前回求めたように、621万円にしかならない。ところが、NPVを評価すると、上のとおりであり、契約方法を変えることにより、収益のあるプロジェクトになったり、収益のない(赤字)プロジェクトになったりすることが分かる。
キャッシュフローを重視した経営の中でプロジェクトを実施していくというのはこういうことなのである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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