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第178回(2008.03.18)
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(5)
〜プロジェクトマネジメントの組織能力とはどのようなものか? |
◆はじめに
前回、組織能力として必要なのは
・妥当な戦略
・戦略に対して適切なプロジェクトの選定
・ベネフィットの実現
・ステークホルダ満足の実現
・生産性の改善
といったものであることを述べた。また、第175回では、プロジェクトが無理かどうかを決めるのは誰かという議論をした。
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(3)
〜プロジェクトが無理かどうかを決めるのは誰か?
この記事で議論したように、難しいプロジェクトを実施できるように組織能力の向上に責任を持つのは組織である。その具体的な内容が上のものということになる。
このことは、逆にいえば、組織のスタンスによってプロジェクトが無理かどうかが決まるということでもある。この点を頭に留めておいてほしい。
そこで、組織能力として必要なものを一つ一つ見ていく。
◆なぜ、戦略が必要か?
まず、最初は妥当な戦略策定の能力である。適切な戦略の設定がないと、その戦略実行として行われるプロジェクトは方向性を失う。その次の項目にも関係してくることだが、プロジェクトの選定が適切かどうかに絶対的な指標はない。現場目線で考えるなら、プロジェクト目標(納期、コスト、品質)の妥当性という基準があるように思えるが、これらの基準点になっているのは現状の現場の業務遂行能力である。
つまり、現場能力能力が対応できないからそのプロジェクトの条件設定はおかしいというロジックはあり得るが、絶対的なものではない。少なくとも戦略的観点からQCDにスコープを加えて調整をするという判断があると同時に、絶対必要だということで現場能力の改善を組織として実行するという2つの方法がある。
ここで注意すべきことは、戦略によって実施すべきプロジェクトに戦略達成という方向性が生まれ、さらには、目標としてあるべき姿が生まれるということだ。逆に、戦略があいまいであれば、現場のロジックで進めるしかない。
たとえば、今までの経験のないような納期でシステムを開発できなくてはならないとしよう。ここで戦略があればそのような状況に対する方向性が定まる。たとえば、顧客のビジネスの支援という戦略を掲げていたとすれば、その納期が顧客のビジネスにとって不可欠であればその目標は妥当であり、プロジェクトの定義として適切である。
品質の安定を先送りしてでも
あるいは、顧客満足を戦略に掲げていたとすれば品質と納期のバランスが重要であり、プロジェクトの定義(選定)として適切とはいえない。極論すれば、すべてのプロジェクトの選定妥当性は、戦略によって決まる。そして、戦略上、妥当な目標設定がされたのちには、その目標を調整することは基本的にはない。
◆「現場でできることしかしない」が日本を強くした
ところが、戦略が不明確だと、「現場でできることしかできない」。ここで注意しておきたいのは、これは実は今まで日本企業の強さだとされてきた。これが強みになる理由は、現場力としての改善能力があったためだ。
つまり、戦略からの目標が落ちてこなくても、自らストレッチした目標を設定して、そのために改善の労を惜しまないというメンタリティがあったのだ。しかし、今は、このようなメンタリティは崩壊しつつある。理由は2つある。ひとつは顧客が見えなくなっていることだ。従来、顧客が見えていたわけではないが、顧客の価値観が一様であり、高品質な商品を提供していれば顧客満足が達成できていた。その意味で見えていた。したがって、戦略がなくても改善の方向性は「高品質化・高機能化」という一方向に尽きたのだ。
◆現場で妥当な目標が作れなくなってきた
しかし、これが崩れてきている。日本人は品質に対する信仰は根強いが、グローバルにはそうではない。安いことを求める人もいれば、ユーザビリティを求める人もいる。
最近では環境的な配慮を重視する人もいる。このように顧客の価値観が多様化する中では、戦略なしに現場が現場力を発揮するのは難しくなっている。
もう一つは、目標管理である。上に述べたように敗戦後の日本人はストレッチした目標を設定してそれを達成することにモチベーションを持つ風土があったように思う。
戦後レジュームからの脱却ということを言った首相がいたが、この風土は戦後レジュームの一つだったように思う。
この政策が効かなくなったとすれば、組織として従業員の目標を設定するしかない。
その意味で、目標管理の導入は適切なタイミングだと思うが、一方で、人事評価に直結する目標をストレッチしようとは誰も思わないだろう。これが二番目の理由だ。
経営戦略から現場力までの動きはこのようにパッケージになっている。その中に、プロジェクトマネジメントも位置付けられている。
今、プロジェクトが苦しんでいるのは、このパッケージを断片的に導入している企業に多いという現実をよく考える必要がある。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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