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第175回(2008.01.29)
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(2)〜無理な目標への対処 |
◆例題で考えてみよう
プロジェクトマネジメントに関心が高まってきたのはよいのだが、プロジェクトマネジメントが逆機能することもあるので注意したい。これが今回のテーマだ。
少し間隔が開いたが、前回、責任のフレームワークということで、プロジェクトをめぐって、プロジェクトマネジャー、プログラムマネジャー、事業マネジャー、PMOにどんな責任があるかを整理した。
そこで、前回の話を思い出しながら、以下のような状況を考えてほしい。
あるSI企業の流通事業部のプロジェクト。顧客はもう20年来の付き合いのある流通業A社。今回の引き合いは食料品の鮮度管理をリニュアルするためのサプライチェーン管理のシステムだ。事業部としてはこれからこの種のシステムはニーズが増えると考えているが、あまりノウハウはない。ただし、類似システムはあまりなく、他社も同様だ。営業は、分野そのものの将来性に加えて、得意先であるA社の案件なので、コスト的に無理をしても落札したいと思っている。
このプロジェクトを引き受けることになると思われる食料品部に相談したところ、ノウハウがないので、しり込みをしている。営業は営業的にすべきことはするのでなんとか受注したいと提案するが、食品部はリソースの問題と営業が聞き出してきた納期と予算を問題を気にしている。
しかし、最終的には、事業部長の一声で、提案し、見事に受注する。
◆それぞれの立場からの意見
さて、ここで問題。この状況で受注するとすれば、営業部、事業部、食品部(組織)、プロジェクトには、それぞれどんな責任があるだろうか?
プロジェクトマネジャーから言わせると、営業部や、上位組織(事業部、食品部)に対して、顧客からしっかりと予算を取ってくるのが責任だということになる。しかし、むちゃくちゃな値引きや、できる見込みのない納期での受注はともかくとして、常識的な競争が行われている範囲で、もし、自分たちでは無理だと思うような条件での受注になったとすればどうだろうか?この場合、できる企業もあるのだから、競争力の問題であり、単にプロジェクトの能力が低いだけだという見方もできる。すると、その条件でプロジェクトを実施することに責任を負わなくてはならない。
少なくとも、事業部から「競合社ができるのだから、うちでもできるだろう」といわれると、正面切って、できないとはいえないだろう。
しかし、よく考えてみると、ノウハウがないのは、プロジェクトの責任か?という話になる。ここで微妙な立場になるのが、食品部である。今回の場合は、世の中にもあまり類似例のないシステムだということだが、この分野の研究をしてこなかったことには責任を問われてしかるべきだろう。
そこで、プロジェクトマネジャーと相談して、この分野のコンサルタントを連れてこようといった話になる。無理して受注しているのだから、その費用は営業部が持つのが「筋」だろうという話になる。
しかし、営業は営業で、ちゃんと落札条件のヒントを聞き出して、落札できる範囲で最高の条件で受注しているのだから自分の責任は果たしていると言っている。むしろ、生産性が悪かったり、この分野への対応をきちんとしてこなかったのは、食品部や事業部の問題だという主張をする。
◆問題の整理
このケースでは問題は3つに整理できる。
(1)プロジェクトの生産性が低く、競争力に欠ける
(2)現実的には無理な受注をしている
(3)食品鮮度管理という分野への準備を欠いていた
この責任の中で、それぞれの立場の人たちは何をすればよいのだろうか?
まず、プロジェクトだが、生産性が低いということで、生産性を上げる改善を行うことが急務である。ただし、ここで注意しなくてはならないのは、生産性が低いことには、3つの原因がある。ひとつは無駄があることだ。典型的には、プロジェクトにおけるメンバーの稼働率である。二つ目は個々のメンバーの生産性(作業効率)である。
三つ目はプロセスの効率である。開発プロセスが最適化されているかいう問題だ。
このうち、三番目はプロジェクト(マネジメント)の問題ではない。組織によっても異なるが、多くの場合事業部の問題である。あるいは、食品部の問題である。プロジェクトにおける無駄の解消と、メンバーの生産性の向上はプロジェクトマネジメントの問題であり、プロジェクトの責任である。
次に(2)の無理な受注という点だが、これは上位組織の問題である。ただし、その問題の所在は現在の状態で無理というよりも、生産性の向上に努めてこなかったために生じた問題だともいえる。
最後の(3)は戦略の問題であり、事業部の問題である。
◆無理な目標に対応するために
無理な目標への対処のためには、こういった整理をすることが不可欠である。
このような整理を踏まえた上で、受注後のプロジェクトに対処するとすれば、
・プロジェクトの無駄の改善により達成できる目標(計画の設定)
・目標達成のための食品部によるマネジメントサポート
・無駄を省いたのちの生産性ギャップの解消を金で解決するための事業部からの補てん
→リソース追加で対応
・鮮度管理の専門知識の獲得必要
→コンサルタントの招へい
といったところだろう。これらの整理をした上で、プロジェクトに実際の進行の権限委譲とマネジメントサポートを行う必要がある。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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