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第176回(2008.02.19)
組織が行うべきプロジェクトマネジメント(3)
〜プロジェクトが無理かどうかを決めるのは誰か? |
◆プロジェクトが無理かどうかを判断するのは上位組織
多少、前回の蒸し返しになるが、今回考えてみたい問題はこれだ。この問題、はっきりしているようで、意外とはっきりしていない組織が多い。
基本的には上位組織である。
こう言われると、「現場がわからない人たちに現実的な判断をするのは無理だ」という反発を感じるプロジェクトマネジャーは多いだろう。しかし、上位組織ができるといった瞬間に、プロジェクトはやらざるを得なくなる。
ただし、これには条件がある。
◆上位組織によるプロジェクト選定
174回に述べたように、プロジェクトを取り巻く責任には、いろいろな責任がある。
その整理でいえばプロジェクト成果に対する責任はプロジェクトマネジャーの責任である。その意味で、いったん、上位組織ができると判断したプロジェクトは期待通りの成果を上げるのがプロジェクトの責任である。
では、無条件に組織は必要だと思うプロジェクトをやれといってよいのか、これが問題だ。もちろん、よいはずはない。組織はプロジェクトに対して選定の判断基準を持っておく必要がある。
ここを勘違いしている人が多いが、この選定基準は事業上の必要性に関するものではない。それは、経営の責任であり、権限でもある。上位組織が判断しなくてはならないのは、組織能力に照らし合わせた判断である。つまり、現状の組織能力で本当にそのプロジェクトを成功させることができるかどうかの判断である。つまり、冒頭のそのプロジェクトが無理かどうか決めるという話だ。
◆プロジェクト選定をするための責任
ただし、この判断をするにあたっての責任として、当然だが戦略遂行責任というものがある。できないからといって、片っぱしからプロジェクトを止めていたら、戦略が実行できない責任を問われることになる。そこで、プロジェクトに丸投げをするという構図が生まれる。ある程度、できないとわかっているので、目をつぶって丸投げをするしかないというのが実情だろう。
実はここがマネジャーやシニアマネジャーが仕事としていないとプロジェクトマネジャーから批判される原因の一つになっている。ただ、批判としてプロジェクトを支援すべきだというのはあまりただしくない。上位組織がすべき仕事は組織能力の向上である。この仕事をしているという条件の中で、上位組織はプロジェクトが無理かどうかを決めるべきだということになる。
つまり、上位組織はプロジェクトマネジャーの能力も含めて戦略実行に必要な組織能力を見極め、不足している部分を常に改善していく必要がある。このような活動ができて初めて、「伸びシロ」を含めたプロジェクト目標を掲げたプロジェクトを立ち上げることができると考えるべきである。
そして、その限りにおいて、プロジェクトは与えられた目標をクリアする責任が生じる。
では、組織能力の構築とは何か?
これは次回に回すことにして、上の議論を読んでチンプンカンプンだった人のために、もう少し、原理的な説明をしておこう。知っている人は読み飛ばしてほしい。知らない人はこのくらいのことは知っておいてほしい。
◆戦略経営とプロジェクトの関係
そもそも、プロジェクト型の業務遂行が増えてきたのは、戦略経営が導入されているためである。つまり、従来のように、結果としてできたものが成果になる経営ではなく、成果目標(たとえば、売り上げとか、シェアとか、利益とか)を決め、それを達成していくのが戦略経営である。
戦略経営の中では、戦略目標が与えられる。これが成果目標であり、事業としてのあるべき姿になる。この戦略目標に対して、実際のプロジェクトを受注したり、あるいは企画したりすることにより、実現を図っていく。これがマネジメントである。
◆戦略経営の遂行に対する現状
成長戦略を採る中では、戦略目標は必ず、現有能力を超えたレベルのものが設定される。そうしないと、成長できないからだ。このために企業は何をしなくてはならないかというと、パフォーマンス(組織能力)の向上である。しかし、日本の場合、ここ10年くらいの経営で、ここにおかしな現象を起こしている企業がかなりある。非正規労働者(派遣、パートタイム)の増加を背景にして、組織能力の向上を考えず、非正規労働力の確保によって戦略目標を達成しようとしている企業だ。経営としてみれば、苦労はしているが、工夫は全くしていない。これがこの2〜3年はオフショアに活路を求めている。
しかし、このようなことをやっているうちに問題になりだしたのが、プロジェクトマネジャーの不足である。これは当たり前の話だ。経営計画によってマネジャーを計画的に育成してきたのに、上にのべたような経営アプローチをとっていることによって、同じ成果を得るのに、より多くのプロジェクトとマネジャーが必要になってきている。
当然、計画通りの育成では足らなくなってきている。
本来経営とはリソースに合わせて行うものである。ゆえに、資本金を大きくする、生産能力を拡大する、従業員の能力を向上させるなどの組織能力の向上によって、事業規模も大きくしていく。この原理が完全に忘れ去れて、目標ありきになっている。これが最大の問題であり、個人レベルでは目標管理制度のゆがみにもなっている。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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