第115回(2006.09.05) 
プロジェクトマネジメントにおける標準の意味

◆はじめに

前回は、PMOの基本的な立場が意思決定の支援者であることを述べた。

プロジェクトマネジメントとPMO(1)

今回からは、より具体的なPMOとプロジェクトマネジメントのかかわりについて述べていく。


◆メソドロジー、標準、テンプレート

PMOの基本的な役割は、メソドロジー(以下、方法論)を導入することである。

方法論とは、

あるコンセプトに基づいて、複数の手法、規則、ノウハウ(プラクティス)等を相互に関連づけて進めるプロセス

のことであり、一般的には次の5つを指す。

 ・プロセス
 ・手法
 ・手続き
 ・ルール
 ・プラクティス

方法論に対して、標準とテンプレートという概念がある。言葉はよく聞くと思うが、あまり正確に理解されていない。

テンプレートは方法論の実行を支援するツールである。これに対して、標準とは、導入した方法論が正しく適用されているかどうかの基準を指すものである。テンプレートにしたがって計画を作ったり、実行管理をしていけば方法論が正しく適用されていることが保証されるという意味で、テンプレートも標準の一部になることがある。


◆WBSを例にとって

プロジェクトマネジメントの方法論の多くに含まれるようになってきたのが、WBSについて考えてみよう。WBSに対して、その組織の一般的なWBSの構成をテンプレートとして準備することが多い。これはテンプレートであって標準ではない。

混乱してはならないことは、WBSで「業務プロセスの標準」を定義することがある。

たとえば、開発プロセスの標準、設計プロセスの標準といったものである。これはあくまでも業務プロセスの標準であり、プロジェクトマネジメントの標準とは異なる。
一方で、プロジェクトマネジメントとして必ず行ってほしいことをプロジェクトマネジメントの標準WBSとして準備することもある。こちらは、プロジェクトマネジメントの標準であってテンプレートではない。ここを混乱しがちである。このような混乱を避けるために、マネジメントWBSと、業務WBSのテンプレートは別々に準備しておくことが望ましい。

次に、WBSに対して、その妥当性のチェックリストを作る。例えば、

1.WBSはスコープ全体を定義している
2.WBSやWBS辞書、および、スコープ記述がプロジェクトのベースラインとして活用されている
3.WBSで示されている成果物が重複していない
4.WBSの各要素が、成果物のユニットに対応付けられている
5.WBSがすべてのプロジェクト成果物を含んでいる
6.WBSの各項目はユニークなIDをもっている
7.WBSで示されている成果物に対して、その生成方法が記述されている
8.プロジェクトマネジメント項目がWBSに含まれている
・・・・・

といったチェック項目を設定する。これがWBSに関する標準になる。


◆標準の持つ役割

以上の議論から分かるように、標準はプロジェクトマネジメントが導入した方法論に則って行われていることを保証する。その意味で、プロジェクトマネジメントの品質を均質化する。

ただし、方法論が適切なプロジェクトマネジメントを実現するという保証はないので注意する必要がある。この部分は方法論の繰り返しの適用の結果として判明するものである。つまり、プロジェクト標準が準備されているからといって、それにしたがって進めて行って失敗したら標準が悪いという議論にはならないし、方法論が間違っているという議論にもすべきではない。

方法論も標準も(もちろん、テンプレートも)、組織が行いたいマネジメントをするために存在している。プロジェクトマネジメントのガバナンスの問題はあるが、プロジェクトマネジャーが行うべきだと考えるマネジメントはこれに優先する。その意味で、方法論や標準はプロジェクトマネジメントのツールに過ぎない。これをよく認識しておく必要がある。

同時に、だからといって方法論や標準を無視してよいという理由にはならない。「方法論や標準でも実現できる」マネジメントはそれらに則って行うべきだ。

方法論や標準を有効に活用するには、この2つの原則を守る必要がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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