第104回(2006.06.20) 
学習する組織に変える(その7)〜学習のメカニズム


前々回まで、プロジェクトマネジメントの組織学習のインフラになる要素について述べた。さらに、前回は、学習するとはどのような「変化」を起こすことであるかを述べた。

103回
102回

では、それらのインフラの上で、実際にどのように学習が進んでいくのだろうか?

この問題を考えるにあたって3つのキーワードがある。

 ・スキル
 ・意識
 ・態度(信念)

である。

この3つの要素が相関がある。スキルが身につくと、それまで見えなかったものが見えてくる。このため意識が変わる。意識が変わると、それが態度に表れる。あるいは態度が変わる。そして最終的には信念になっていく。さらに、その態度が新たなスキルの習得を促し、新しいスキルが身につく。


◆PM(R)における学習例〜リスクマネジメントをめぐる事例

例えば、プロジェクトマネジメントの導入時期を考えてみてほしい(もう、あまり、記憶にない人もいるかもしれないが、ぜひ、思い出してみてほしい。

組織としては何もしていないところに、リスクマネジメントを導入した。トレーニングなどをして、プロジェクトマネジャーにも知識を身につけてもらった。効果については半信半疑で、よく分からないままに、計画の中で、リスク識別を行い、リスク分析し、対策を立てた。

やりだしてみたら、その中で考えていたように、メンバーの独断で顧客と相談の上、スコープ変更が発生した。このリスクに対しては、スコープ変更ルールを作るとともに、関連チームが気づいたときには報告するというルールを作ってあった。これがうまく機能し、当のチームリーダーからは報告されなかったが、別のチームリーダーから報告があり、顧客との合意をする前に検討することができた。

こんな経験をしたとしよう。これで、

 「リスクマネジメントっていいかもしれない」

という意識が芽生えてくる。これがプロジェクトマネジメント普及の第一歩である。実は多くのプロジェクトマネジメント導入企業がここでとまっている。理由はプロジェクトマネジャーの態度(信念)であることが多い。例えば、マネジメントなどなくても経験でプロジェクトはうまく進めることができると考える。このような態度がある限り、よほど、インパクトのある経験をしない限り、上のような意識は生まれてこない。リスク計画を作るのは面倒だといった意識が先に立つからだ。

学習する組織になるためには、この壁を打ち破る必要がある。この壁は実は、「バカの壁」である。アンラーニングをさせ、客観的にメリットを捉える習慣をつけていく必要がある。そのために役立つのは、「4行日記」のような客観的思考を習慣付けるツールや、ロジカルシンキングのような論理思考を促進するツールである。

 4行日記

 論理思考


そのようにして、意識が変わると、態度が変わってくる。リスクマネジメントを受け入れる態度になる。すると、もう少し、ちゃんとリスクマネジメントができるようになろうとする。セミナーを受けてみる。経験者の話を聞いたり、失敗事例を調べたりして、自分の仕事にどんなリスクがあるか深くしろうとするようになる。つまり、スキルがあがる。


◆スキルだけでは何も起こらない

このようなサイクルができて初めて、個人の能力が高まり、プロジェクトマネジメントに対する組織学習が進んでいく。

このサイクルを無視して、ひたすらスキル教育(情報学習)をしてみても、何も起こらないことを肝に銘じておきたい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
ありがとうございます。
PMOが施策の展開をする際には常に意識しておきたいことですね。
好川哲人
響いた!
当たり前のことだが、確かにそうだ!
柴田浩太郎(35歳・IT企業)