第102回(2006.06.06) 
学習する組織に変える(その5)〜マネジメントインフラを刷新する

◆マネジメントインフラとは

これまで、学習する組織に必要なものとして、理念と、思考を促すツールについて述べてきた。最後はマネジメントインフラの刷新ということについて考えてみたい。

マネジメントインフラという言葉は単純に考えると、意思決定の仕組みをさす言葉であるように思える。基本的にはそうだ。組織が学習していくためには、意思決定のための仕組みを変え続けていかなくてはならない。

意思決定のための仕組みというとまず決裁ラインが思い浮かぶ。実際に組織が変わらない理由は、決裁ラインや決裁方法を変えないためである。


◆既存のマネジメントインフラにこだわると失敗する

例えば、こんな例があった。納期遅れの削減ということでプロジェクトマネジメントを導入した組織がある。特に、予想外の事態の発生が納期遅れ多発の原因だと捉え、リスクマネジメントを強化した。そして、ほぼ、PMBOK(R)に準拠したプロセスとツールを導入した。

ところが、実際にしばらく新しい仕組みでプロジェクトを運用していると、この組織でスケジュール遅れの元凶になっていたのは、手戻りではなく、上層部による権限委譲のあいまいさであることが分かってきた。権限の範囲が明確でなく、プロジェクト内の意思決定は基本的な運営は組織のレギュレーションで行われていた。つまり、通常と同じ職位のマネジャー、つまり、プロジェクトの上位組織のマネジャーが多くの意思決定をしていた。いわゆる「雇われPM」という奴だ。このため、意思決定に思わぬ時間がかかり、それが積もってスケジュールの遅れを引き起こしていたのだ。

ここで、この組織が行ったことは、権限委譲ではなく、意思決定者が速やかに意思決定できるにはどうすればよいかという議論だった。その結果、レポートの強化などいくつかの施策を掲げた。結果はいうまでもないだろう。皆さんの想像どおりの結果になった。それまで50%程度であった遅延率が70%程度になった。


◆学習する組織ではマネジメントインフラの刷新が必要

この例から学ぶべきことは、失敗に学び、失敗を回避するためにインフラの刷新が行える組織であることだ。上の組織でも、当然、議論としてはプロジェクトマネジャーへの明確な権限委譲の話はあった。しかし、さまざまな理屈をつけ、実現しなかった。そればかりか、信じられないことに、刷新をしない言い訳として、一層プロジェクトマネジャーを動きにくくする施策をとったのだ。

この事例は特殊な事例ではない。マネジメントインフラは組織の生命線であるばかりではなく、ラインマネジャーの存在価値にもなっている。そこで、それを奪われないようにすることに関心が行くことは世の常である。ある意味で些細な話であるが、ここが学習する組織になれるかどうかのポイントである。


◆マネジメントインフラにはどのようなものがあるか

さて、もう少し、マネジメントインフラを広く捉えてみると、

「組織がプロジェクトマネジャーの仕事をサポートする資源をいきわたらせるための手段」

だと捉えることができる。このように考えると、話は単に上に述べたようなガバナンスの話だけにとどまらない。いろいろなものが含まれてくる。思いつくままに例を挙げてみると

 ・資金(プロジェクト予算)
 ・情報
 ・コミュニケーション
 ・経営陣のサポート
 ・人事制度

といったものが思いつく。また、このほかにも重要なものとして、「時間」というインフラを考える必要もある。上の例などはまさに時間を刷新する必要がある例だ。


◆PMOリーダーがチャンピオン

このような例を考えてみても分かるが、この問題はガバナンスマネジメントの問題である。上の例からも分かるように学習する組織では、ガバナンスマネジメントが柔軟であり、マネジメントインフラを刷新しやすい環境にあることが不可欠である。このような刷新を実現していくのは、変革においてはチャンピオンと呼ばれるリーダーである。プロジェクトマネジメントであれば、さしあたり、PMOリーダーがの役割を果たすことになる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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