第5回(2006.04.28) 「プロジェクト パフォーマンス マネジメント」 その5
PPMの要はWBS/WP
城戸 俊二
 kido@dem.co.jp
(有)デム研究所 http://www.dem.co.jp


過去4稿に亙り筆者が意図するPPM論の概要を述べてきたが、筆者の論をほぼ言い尽くしたので本稿で一旦集約する。合わせて今後PPM論を踏まえたプロジェクトパフォーマンスの議論を進めていく上で不可欠なWBSについての再確認と理解の統一を図るために一部紙面を拝借する。WBSについては熟知されている読者も多いと察するが、WBSほど時、場合、立場などによってその内容、意味することが微妙に異なってくるのも稀なので、敢えて本稿にその解説にスペースを割くこと、また話しがPM技術的なものであるため文調が技術解説的になることをご容赦願う。

【PPMモデルの誕生】
本シリーズの第2稿でPPMP(Project Performance Management Process)を構成するPMのコア要素とプロジェクトのライフサイクルに亙るこれら相互の関わりあいを一覧表で示した。第3稿ではこれらの要素が立体的に或は多次元的に絡み合ってその効果を発揮することをPPMS(Project Performance Management System)として解説した。また第4稿でPPMSを自己の目的に適う品質のものとして構築するための手順を紹介した。今後はこれらのシステムを総称してPPMモデルと呼ぶ。

【PPMモデルとWBSの連携】
今後PPMモデルを用いてパフォーマンスマネジメント論を展開する上で、あと一点確認しておかねばならない。このモデルはPPMPとPPMS全体外枠、およびその中での作業フローは示しているが、その中身については第3稿及び4稿でWBS、スケジュール、組織、成果測定がコア要素として互いに絡み合っていることを述べただけで、これらが構造的(特にパフォーマンス情報マネジメントの点)にどのようになっているかは明確にしていない。今後の議論を進める上でフェーズの情報(特にプロジェクトやプログラムのフェーズ)や組織の情報(特に業務遂行責任、役割など)は論点を明確にする上で重要である
これを明確にするための枠組みはWBSが最も有効である。当事者を明確にする手段、及びPPMで取り扱われるスマネジメント情報は何処で生成され、それは何を根拠にし、どのような過程を経て利用されるかを明示する手段として、WBSの種類と機能について共通の理解を持つことは重要である。

【一言でWBSといっても用途に応じて色々ある】
日常の会話で“WBSを作ってください”“はい承知しました。引き請けましょう”などと気軽にやり取りすることがあるが、ここで注意すべきは、そう言う当人がWBSについてどれ程の知識を踏まえて話しているかを見分け、聞き分けることである。WBSを語る際には2つの基本知識が前提となる。WBSの種類或は用途(図―1の例)と、その内容(図―2に示すWBSの構成)に関する知識である。
まず一つ目の知識「WBSの種類或は用途」について整理しよう。図―1にWBSの用途から見てプロジェクトマネジメントに身近なものの代表例を示す。




[図―1の用語の説明]
Project WBS:
一つの目的を達成するために行う全ての業務を、管理単位毎に整理し階層的に体系化したもので、各管理単位は図―2で示す内容を伴う。
Program WBS:
プロジェクトの上位概念で、システム開発や製品開発などの幾つかの段階を経て行う業務を管理単位毎に整理し階層的に体系化したもの。プロジェクトの管理単位と同様に図―2に示す内容を伴うが、捉えるサイズがProject WBSより大きい。Project WBSはProgram WBSの一部分(一つの目的で括れる範囲)をプロジェクト管理の都合で展開したもの。
Owner’s WBS:
システム開発や製品開発で行う業務のうち、発注者が管理と遂行責任を持つ範囲を体系化したもの。
Contractor’s WBS(CWBS):
Owner’s WBSの一部分を一つの発注単位として切り出したものを基に、請負者が自己管理の都合で必要に応じて更に細分化したもの。請負者が管理と遂行責任を持つ。
【WBSは仕事を分解しただけのものではない】
  次にWBSの内容についての注意である。まずWBSの構成に関わる用語にはWBS自体の他にWork Package、WBS Element、およびWBS Dictionaryがある。図―2にこれら4つの言葉の相互関係を示す。
  我々の日常会話でWBSと言えば殆どの場合Project WBSのことであろう。このとき相手が云う“WBS”は図―2の内容のものであること確かめずに、言葉だけを真に受けて自分独自の判断で居るととんでもないリスクを背負い込むことになる。どちらか一方が“WBSは作業を細分化し、単純にリスト化したもの”と理解していた場合、作業成果物が見えた時点で大問題になることは、想像に難くない。

[図―2の用語の説明]  詳細はPM関連のガイドブックなどをご参照。
Work Package:
WBSの最下段に位置し、作業の内容を詳細に記述したもの。これには作業項目、作業シーケンス、作業実行に必要な資源、このパッケージの管理担当者などが定義されている。
Work Element:
WBSの構成の内でWork Packageより上位階層のパッケージ(中間階層)。
WBS Dictionary:
Work Elementの内容を定義したもの。これには包含する下位のWork Element或いはWork Package、出来高測定に関するデータ(PV,EV,AC)、Work Elementの管理担当者などが明記される。
WBS:
作業を階層的に分解し体系的に表現したもので、それぞれの塊は図−2及び上記の内容が定義されている。(但しこれは筆者の定義)
  次稿以降はPPM論を基にプロジェクトのパフォーマンスマネジメントのコツ、要点などについて、幾つかの例、或は仮説を踏まえた考察を進める予定である。
プロジェクト パフォーマンス マネジメント バックナンバー
第1回 プロジェクト パフォーマンス マネジメントとは何か
第2回 プロジェクト パフォーマンス マネジメントプロセスの全貌
第3回 プロジェクト パフォーマンス マネジメント ストラクチャー
第4回 PPMシステムの組み立て方と使い方
第5回 PPMの要はWBS/WP
第6回 パフォーマンス トレードオフの要 WE/WP

第7回 マネジメントフレーム間のパフォーマンス情報フロー

一覧に戻る
スポンサードリンク
読者からのコメント

■本稿に対するご意見,ご感想をお聞かせください.■

は必須入力です
コメント
自由にご記入ください

■氏名またはハンドル名
■会社名または職業
■年齢

  
このコンテンツは「プロジェクトマネージャー養成マガジン」としてメルマガで配信されています.メルマガの登録はこちらからできます.