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第95回(2006.04.18)
プロジェクトマネジャーの意思決定 |
◆権限と責任
プロジェクトマネジャーの権限というのがよく問題になる。いわく、プロジェクトマネジャーは責任は大きいが、権限は小さい。一種の不公平感があるのだと思うが、これについては、そもそも、権限と責任というのを比較すること自体が間違いではないかと思う。「権限がなければ責任が果たせない」、「責任があるのなら権限があってしかるべきだ」、これらはある意味で現実を言い当てているが、本質的には錯覚である。おそらく、社会における義務と権利になぞらえたものだと思うが、全然、違う。
組織の中では、権限があろうがなかろうが、責任は果たさなくてはならないし、権限が強いから責任も大きいということではない。これらはサラリーマンという雇われの身であることを前提としたPLであって、プロジェクトをやっていくのであれば、プロジェクトの目的に対して責任があり、組織の中での所与の権限しかない。その意味で、プロジェクトマネジャーを張る年代の人材(つまり、組織の中の稼ぎ頭=実務的に最も高い付加価値を生み出せる年代)にとってバランスが取れているとすれば、その企業はお先真っ暗だろう。
◆必ずしも、不公平だと思っているわけではない
前置きが長くなったが、ここで言いたいことはプロジェクトマネジャーの権限のことではない。多くの人がプロジェクトマネジャーは責任が重く、権限が小さいと思っている理由についてである。仕事柄、多くのプロジェクトマネジャーにインタビューする機会があるが、実は上に述べたことは半分くらいのプロジェクトマネジャーは分かっているように思う。この後の社会がどうなるかは分からないが、少なくもと今までは終身雇用であったので、その制度の中ではインとアウトでいえば、キャリアの初期はインが大きく、アウトが小さい。それが一人前と思われるようになる入社4〜5年くらいで対等になり、その後、インよりアウトが大きくなる。この時期はずっと報われないという不公平感がついて回る。しかし、上級の管理職になるあたりから再び、アウトよりインの方が大きくなる。このようなキャリアサイクルで全体的にはバランスが取れているのが終身雇用ではないかと思う。それをよく分かっている人が多いのだ。
◆不公平感よりも、ガバナンスマネジメントの欠如が問題
そのような人たちが敢えて権限より責任の方が大きいという発言をしたくなる理由は、ガバナンスマネジメントの欠如である。PMBOK(R)的に言えば、プロジェクトマネジャーの権限についてはプロジェクト憲章に書き、組織はその点(つまり、権限委譲)を含めてプロジェクトの承認をするということになっている。しかし、権限委譲というのはあくまでも権限委譲に過ぎない。委譲したもの、つまり、組織側にも権限は残っている。
権限を表現する言葉の中に、専権という言葉があるが、プロジェクトマネジャーに与えられた権限は専権ではない。ここを誤解している人が多い。専権ではない限り、シニアマネジャー(上位マネジャー)が意思決定に介入してくるのは、当然なのだ。
この誤解以上にまずい状況を作っているのは、ガバナンスの移行である。専権ではないとはいえ、一旦、委譲した権限の行使にあたってはしかるべき儀式が必要である。
これをやらずにいきなり権限の行使をする。というよりも、多くのプロジェクトではそのような場を作っているケースが多い。シニアマネジャーやエグゼクティブの参加する会議体である。ここは本来、組織とプロジェクトマネジャーの交渉の場であるが、指示を受ける場になってしまっているケースが多いのだ。委譲した権限が、月に1回だけ、自動的に大政奉還される。こんなガバナンスマネジメントは本来ありえないだろう。
◆上位者に制限的なガバナンスマネジメントが必要
プロジェクトマネジメントのガバナンスマネジメントはその性格上、上位者に対して制限的であるべきだ。言い換えると、権限の変換はプロジェクトマネジャー自らの意志によって行われるべきである。もちろん、より豊かな経験のある上位マネジャーからのアドバイスを受け入れない理由はない。しかし、それはアドバイスであり、指示ではないことを明確にするような場の設定と、マネジメントを行うべきであろう。
このようなガバナンスマネジメントが行われていることが、プロジェクトマネジャーが適切な意思決定ができる前提である。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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