◆PMI(R)の貢献はすばらしい!
PMBOK(R)の勢いは衰えるところを知らない。十数年前に財政危機だったPMIが世界戦略に出て、それが功を奏し、今は本当に飛ぶ鳥を落とす勢いである。すばらしいV字回復である。
PMI(R)の運営の仕方についてはいろいろと批判もあるようだが、昨年末(2005年12月)で
会員数 208,660人
PMP数 184,461人(日本人12,977人)
という数字は批判のしようがない数字である。そして何よりも、11カ国語でPMBOK(R)という自らの標準を出版していることはすばらしい文化貢献である。
◆PMBOK(R)は日本人のメンタリティにあうか?
ただ、PMBOK(R)というのはよくも悪くも米国的である。
著者は1995年くらいからPMBOK(R)の導入支援を始めて、相当な数をこなしているが、導入の際に問題になるのは必ずといってよいくらい、アカウンタビリティとレスポンシビリティに対する考え方である。
PMI(R)が定めるプロフェッショナル責任に
(1)個人の健全性(真摯さ)とプロフェッショナリズムの確立
(2)個人の能力(コンピタンス)の増進
(3)専門領域の知識集積への貢献
(4)利害関係者間の調整
(5)チームや利害関係者との協調関係
の5項目がある。(1)〜(3)はよいのだが、(4)、(5)はそんなことを言われたくないというメンタリティを持っている国は結構多いのではないかと思う。たとえば、日本だと、こんなことをプロフェッショナル責任として表に引っ張り出されるとこそばゆい部分もあるし、逆にこれが責任だといわれると、抵抗があるという人も結構多い。必要性を否定しているわけではない。
もっといえば、責任だとか、権限だとかを明示的に扱っていくことへの違和感がある。
たとえば、PMBOK(R)で推奨されている、RAM(Responsibilty Assignment Matrix)というツールを導入する。チェックリストとしては便利だし、よく使う。Responsibleが誰かということになるとはっきりしないケースが多い。「責任」という言葉を使うと、みんなの責任であるということになるのだ。そこで、体制については責任にせずに、スコープ区分を応用して定義していく方が現実的だという話になる。
これは、日本企業の強みであるし、現場力の源泉でもある。そして、RAMを作らなくても、スコープ区分で仕事ができるというのは、「アメリカ人」のあこがれる「自律型チーム」であり、そこでは、プロジェクトマネジャーだけでなく、チームとして(4)や(5)の責任を果たしていると思われる。
したがって、(4)や(5)は、わざわざ言われたくないし、明示的に実行することは得意ではないということにもなる。
◆日本人は最強のネゴシエータ
これを日本的だと否定してしまうのは容易であるが、ここで、ジム・トーマスという弁護士・実業家でありながら、世界的著名なネゴシエータの交渉術の本で、日本人の交渉術について指摘されていることを紹介しておく。詳しくは僕のブログの記事
面目と調和を保つ交渉
を読んで欲しいのだが、とりあえず、結論は
日本人の交渉術には非の打ちようがない!
と絶賛している。その背景にあるのが、(あえてこのような表現をするが)、日本流のアカウンタビリティとレスポンシビリティの扱い方であるのは間違いない。交渉がプロジェクトマネジメントのひとつの柱であるのを否定する人はいないだろう。
このような意見を持つ米国人もいる。米国流の方法がよいと簡単に日本を切り捨ててしまえるだろうか?答えを出す前に、では、他のプロジェクトマネジメント標準はどうなっているのか?
戦略ノートでは今回が91回である。実はこの問題は最近感じている問題ではなく、戦略ノートを始めたときから持っていた問題である。これから100回のカウントダウンに向かって、この問題を考えてみたい。
◆プロセスを考えるか、システムを考えるか?
この問題を考えるキーワードは、プロセスを考えるのか、システムを考えるのかである。
それだけをインプットしておき、まずは、いろいろな標準を分析してみたいと思っている。とりあえず、最初は、PMBOKでは十分ではないという人が、なぜか、一様に取り上げるIPMA(International
Project Management Association)のICB(International Competency Baseline)を取り上げてみたい。次回をお楽しみに。
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