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第55回(2004.05.17) 
「失敗は繰り返す」

◆一度失敗したPMは次も失敗する
 先日、PM学会の四国支部で、プロジェクトマネージャーの育成の講演をした。著者が考えるプロジェクトマネージャーの育成方法は

 pmstyle.com


のサイトやメールマガジンで解説をはじめたので、そちらを参考にして戴くとして、その中で、面白い指摘を受けた。われわれの掲げる育成スキームの中で、プロジェクトマネージャーの成長を促す経験として、「プロジェクトの失敗」が入っている。

 これに対して、PM学会の副会長でもあるIBMの富永先生から、「IBMでは過去12年、約3000人分のデータを採ってきた。それによると、失敗した人は、次のプロジェクトでも失敗する可能性が大きいという結果が出ている。本当に失敗は役に立つのか」という指摘があった。

 この質問そのものは、ちょっと講演の内容とフォーカスがずれていたが、要するに富永先生のおっしゃりたかったことは、失敗はレッスンズラーンドとして組織の中に残さないと同じ失敗を繰り返すということだろうと思う。これはこれで、プロジェクトマネジメントの中では今は常識化しているので、異論はない。

◆失敗を認識せずに失敗を繰り返す
 興味があるのは、なぜ、そのようなことが起こるのかである。実は、講演会の後で、富永先生にデータをいただけないかと問い合わせたところ、社内データなので出せないということだったので、著者なりに推測をしてみたい。

 IBMにそういうデータがあるなしにかかわらず、著者にもそれなりの経験に基づくデータがある。その中で、著者が感じているのは、失敗の受け止め方の問題である。プロジェクトの失敗をプロジェクトマネージャーの失敗経験として位置づけていないケースが多い。もちろん、責められることは多い。しかし、それを経験として活かすようなマネジメントは個人任せになっている。ここをきちんとマネジメントしていかないと、

 そもそも、プロジェクトマネジメントの中で、失敗、成功という議論はあるが、では、何が成功で、何が失敗かという点はあいまいな場合が多い。

 計画通りにプロジェクトが進めば成功であり、計画通りにいかなければ失敗。

これしかないのだが、これを評価基準として設定しようとすると実にさまざまな反論が返ってくる。総じていえば、計画がそのような位置づけになっていないというのが多い。たとえば、とりあえず、社内プロセスを進めるためにとりあえず作った計画でそんな評価をされると顧客との関係がうまくいかなくなる、などなど。

 この傾向はレッスンズラーンドをやり始めている組織ではだんだん減ってきているが、そのような組織でもプロジェクトマネージャーの問題というのは避けて通る傾向がある。たとえば、見積もり時点で情報が少なく、プロジェクトが進展しても情報が少なかった。これが、問題点。原因は顧客が忙しく、十分な対応をしてもらうことができなかった。次のプロジェクトからは顧客に申し入れをし、顧客側のプロジェクトも体制的にしっかりとして貰い、協力してもらうべき作業はコントロールできるようにしようという対策をとることにした。ここまではよい。

◆プロジェクトマネージャーの役割とは
 ところが、このような状況でうまくできているプロジェクトを見ると、プロジェクトマネージャーが顧客をうまく取りまとめている。これをプラクティスだと考えると、顧客とまとめていくことはプロジェクトマネジメントのミッションであり、失敗要因が何かと分析する際にプロジェクトマネージャーの能力不足が出てこないのはおかしい。

 つまり、失敗したプロジェクトにおいては、プロジェクトマネージャーの責任が問われることは少ない。失敗は認めるようになってきているが、組織の問題を指摘する傾向がある。

◆プロジェクトマネージャーの責任を追及しよう
 日本の組織では、プロジェクトマネージャーの問題点の指摘は個人への糾弾だと考える傾向があり、それがプロジェクトマネージャーの責任をあいまいにしている。プロジェクトマネジメント、あるいはプロジェクトの問題の多くは当然のことながらプロジェクトマネージャーの判断のミスによることが多い。その点まではっきりさせないと本来の意味でのレッスンズラーンドにはならないだろう。そして、失敗したプロジェクトマネージャーは、次のプロジェクトでも失敗することになるだろう。つまり、失敗を経験として活かせない状態が続くのだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
先日、とあるセミナーを聴講した際、講師の方がこんなことを言っておりました。「失敗から学ぶようでは二流。一流は成功から学ぶ」と。 拓真(29歳・)
僕も賛成です。失敗事例など聞いてもあまり意味がないと思っています。
ただし、自分の失敗から学べないは、二流どころか、三流ですね。
好川哲人
確かにその通りだと、改めて実感しました。小さい失敗でも、何度も繰り返すやつ・・・もとい、人がいます。「学習しろよ。」なんて言われている人がいますが、もちろん個人の資質もありますが、本人に任せすぎていることも、改めて認識しました。勉強しないといけないですね、みんなで。 kumaboo(44歳・イー・コスモ株式会社)
二度と同じ失敗を繰り返さないと考える余り、前回のプロジェクトを意識し過ぎてしまう傾向にあるのでは?と感じます。
次のプロジェクトも自分のキャリアの中では、他と同じ1プロジェクト。
こう考えないと、自然な計画、遂行ができないと思います。
失敗の経験は、その上で役に立つ物と考えます。
大久保 明彦(38歳)
計画通りに行かないプロジェクトは、行くゆくは納期遅れなど顧客の信用も無くることに繋がります。これを問題として捉えられないプロジェクトマネージャは、仕事の改善ができずに、失敗を繰り返します。
計画遅れの要因などプロジェクトで得たノウハウを、他のプロジェクト又は組織内の仕掛けに反映させるというプロマネ教育、組織としての規格・基準の改善、業務フロー・チェックシート等の運用方法を見直すことが重要だと考えます。要は、プロマネは自分の失敗を積極的に反省し、他のプロジェクトで同じ失敗を繰り返さないという意識が必要だと思います。
敏(37歳・日立製作所)
失敗後の教育、指導がプロジェクトマネージャーだからしないのが問題だと思います。
次も失敗するのは、何が悪く、どうするべきかを指導、考えさせないからだと思います。
私も経験がありますが、二度目は失敗しなかったです。
shi-n(32歳・ソフトウエア開発)
繰り返す可能性は非常に高いと思います。
失敗したマネージャ自身が被害者づらして反省してない事が良くあります。
というよりも本人は本当に自分が原因だと思っていないのがタチが悪い。
会社も「同じ事を繰り返してるのに異なる結果を期待する」といった節があります。
何も学習してないので次も当然失敗する訳です。
まずは本人に失敗の原因があることを認識させること。
本人、チーム、会社それぞれが改善する努力が必要だと感じます。
PMPビギナー(31歳・IT系リーダ職)
私は自然エネルギー開発に従事しております。
その中で特殊法人から受注したプロジェクトが今も忘れられない失敗に満ちたものでありました。
しかし、「レッスンズラーンド」にはならず今は直接のごく少数の関係者を除いて忘れられています。
所期の目的が達成できないことが失敗となりますが、その原因は計画書が頻繁に発注者からの指示によって変更されることがあります。その際には一方的な指示であり当方との協議調整はありません。
また発注者側によるステークホルダとの折衝が遅延して工期のしわ寄せが受注者側で対応するようにされてしまうこともあります。研究色が強い場合にはもう機械的なレポート作りになってしまいます。
こうした場合に貴説のようにプロジェクトマネジャーの責任に帰すことは難しいと思います。
「プロジェクトマネージャーが顧客をうまく取りまとめている」ことが、できればいいと貴職は主張されるのでしょう。しかし、発注者は監督官庁との目をうかがっていますのでとりまとめは事実上はできません。
そうなると受注者としては契約解除しか残されていません。この手段をとりたいとトップに進言するプロマネはいないでしょう。貴説のとおり批判する方が社内、社外等に多くいますから。
私が主張したいのは、プロジェクトという言葉は盛んに使用されていますが、現実のプロジェクトは「純正なものからはかけ離れているものが大部分」と思います。契約も計画も穴だらけのものが多いのではないかと推測しています。
こうしたケースをなくするためには、中立的機関が「これはプロジェクトではないので、この名称を使ってはいけない」、また「この業務はプロジェクトだからそれにふさわしい契約や実施体制をとるべきだ」と判定することが必要ではないかと思います。
また失敗したプロジェクトのケースを集めてきて厳正に分析して公表することも重要かと思います。私のケースのように多額の税金が使われ、無駄に終わることはなくしてほしいものと思います。
いまだに、政府のプロジェクトはこんなもの、お金が入ってくるからいいじゃないか、という方がいます。残念ですね。
匿名希望
本人が経験から学べないか(原因がつかめていない)、コンピテンシーに問題があるが、あるいは、基本的な知識体系(含:技術知識)を知らないがために、同じ失敗を繰り返してしまうのではないか。
(特にリスク管理、工程管理、ステークホルダーとの調整)
原因がつかめていない点については、Pj完了後の反省として教訓をまとめる必要がある。自分のマネージメントスタイルに問題があったことを理解し、まずは組織の標準化に沿って進めていくことが大事ではないか(自分のKKDでは通用しないことがあることを認識すべき)。
コンピテンシーや、知識体系を含め、自分に何が不足していたのかを冷静に見つめ、何故対策が打てなかったのかの分析から始めないと、時間とともに苦労したことを喉元過ぎたではないが忘れ、また同じことを繰り返すことになっているのではないかと考えます。
石原(MDIS)
本件 基本的に仮定や前提が抜けている様に判断します。
「(知識やスキルの不足したPMは)一度失敗したPMは(経験・学習効果が不足しており)次も失敗する(確率が極めて高い)」と認識しています。
1.プロジェクトマネジメントでも、経験、学習効果がある。
 プロして身に付けるプロジェクトマネジメントの知識領域は広く、深い。このため、基本の知識が無く、未熟なPMが失敗経験から学び、失敗しない為には、失敗の数をこなさなければならない。優秀な医者となるためには、数多くの臨床事例や不幸な失敗から学び、1流となっている。医者でもPMでも失敗をせずに、1流のプロになることが必要である。簡単な知識教育と経験のみからでは、プログラミングの学習効果曲線のように立ち上がらない。この前提は、PMとしての資質があり、一通りの知識と知識を自ら、経験から吟味し、自分の物にした見識としていなければいけない。その上で、失敗経験が生きてくる。
2.プロジェクトマネジメントは、対象領域の理解があって、その上で、失敗事例が生きてくる。
 対象領域、例えば、企業の情報システム構築に当たって、そのプロジェクト環境を理解しておくことが必要である。その上で失敗事例が生きてくる。例えば、その企業の成熟度により、PMはそのリスクを判断し、リスク対応策を理解するなどが必要とされる。成熟度とは、経営品質賞による成熟度、PMIのOPM3、CMMなどがある。また、その対象システムの環境、現状システムの再構築ならば、その背景や、現状システムをどれだけ理解している人がいて、新システムニーズを理解しているかなどです。例えば、グローバルゼーションによる企業環境変化では、新ニーズそのもの明確化できないことがある。そのような背景を理解して、失敗事例を評価しないと、対応が生きてこない。此の点に関しても、未成熟ならば、例えば、PMBOKの9つの知識領域のどのように活用すればよいか、生かせないであろう。また、プロダクトエンジニアリングについてのスキルや協力(プロのITアーキテクトの参画)がなければ、プロジェクトマネジメントは、失敗の評価が出来ず、失敗経験を生かすことが出来ない。
3.PMとしての資質、ヒューマンファクタの問題があり失敗事例が生かせない。
 人の知恵を借り、絶えず学習する意識を持って、自己研鑚を続ける。リーダーシップ力がある。コミュニケーション力がある。論理展開力があるなど根本的な資質に欠けるなどは、失敗を繰返す。
 以上のようにプロジェクトマネジメントは、単純に自己による失敗によって、学習し、失敗を繰返さないようになるには、とてつもない回数と犠牲を伴うと考えるのが妥当と考えます。
無名者(PMP取得者)