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第53回(2004.04.05)
「明確な課題の与えられないプロジェクト」 |
明確な課題の与えられないプロジェクト
◆ゴーン革命
いまや、どんな業界を見ても、コストダウンと品質向上は付加価値にならない。できるのが「当たり前」なのだ。できれば、取引してもらえない。過去からの取引慣行、企業同士の付き合いといったもので保護されてきたのが、この5年くらいであっという間に崩れ去ってしまった。きっかけになったということではないが、タイミングがよく、シンボリックな存在になったのが日産自動車のゴーン革命だ。
このような取り組みは実を結び、この5年くらいの間に多くの企業がリストラクチャーリングに成功し、業績の復活を遂げた。
このような中で、目立つのが事業の方向性である。以前より、特に製造業では、濡れ雑巾を絞ると比喩されるくらい過酷なコストダウンが行われてきたし、リードタイムに対する要求は年々厳しくなってきた。もちろん、品質を下げることはまかりならない。これはこれで極めて厳しい要求である。しかし、ある意味でこれらの課題は与えられた課題である。つまり、コストを20%削減する、リードタイムを20%短縮するといった課題は難易度の高い課題であるが、課題そのものは与えられているケースが多い。
◆課題が明確に示されない革新
これに対して、最近の企業のリストラクチャーの中では、明確な課題が与えられないケースが多い。例えば、リストラクチャーの中でメーカがサプライヤに対して要求することは購買価格だけである。つまり、従来はコストという視点でメーカとサプライヤが価値観を共有していたが、もはやそれはない。乱暴な言い方をすれば、「コストがどれだけであろうが弊社(メーカ)の知ったことではない。弊社はこの部品を100円で欲しい」という世界ができてきた。
この流れがよいか悪いかという議論はとりあえず、ここではするつもりはない。いろいろな言い分があってよいと思う。ただ、このような時代の流れを引っ張りだして言いたかったことは、このような流れの中で求められるマネジメントが変わってきたといわれていることだ。これは直感的に考えてみれば分かる。管理型のマネジメントではもちろんだめだ。優秀なマネージャーがいて、それがスーパーマンのごとく活躍すればすむかというとそれでも不十分である。その仕事に関わる個々の人材の創造性を最大限に発揮させ、かつ、それを束ねていくようなマネジメントがなくては、このような仕事を成功させることはできない。
◆課題が明確ではないプロジェクト
さて、以上の述べたことはプロジェクトにおいてもまったく同じである。課題設定がプロジェクトオーナーから明確に示されることが少なくなっている。IT系のプロジェクトを例にとれば、最初はエンジニアリングの世界であった。「必要なシステム」が明確に示され、それを作ればよかった。それがオーナーの思惑通りに機能するかどうかは、プロジェクトのスコープに求められることは少なかった。もちろん、今でもこのようなスコープのプロジェクトは少なくない。
しかし、最近では、「こういう目的」の果たせるシステムということで、目的は明確に与えらえるが、システムの機能は明確に与えられることが少なくなってきた。RFPの書き方が重要視されるようになってきた一因にもなっている。
このようなプロジェクトでは問題解決が求められるので、計画そのものが非常に作りにくい。計画プロセスで計画が網羅されるより、プロセスの実行とともに、計画が精緻化されていくようなケースが多い。
◆チームとコミュニケーションで乗り切る
このような状況で力を発揮するのがチームとコミュニケーションのマネジメントである。チームの状態というのは4つのレベルがある。最初の状態はチームが編成された状況である。この状況では、組織からの命令でプロジェクトに加わっているだけで、自分の役割も認識されておらず、また、プロジェクトマネージャーも正式な指揮命令系統と見ていない場合もある。二番目のレベルの、チームの全員が自分の役割をきちんと認識し、果たせることである。三番目のレベルは状況に応じて自分の役割外のこともできるようになることだ。四番目のレベルは役割そのものを自らで定義できるようになることだ。二番目以降の3つは初級、中級、上級というイメージではない。状況に応じて、チームの行動として3つともできないとだめなのだ。プロジェクトマネジメントではまず、二番目のレベルの行動をできるようにする。これができないと計画を作っても実行できない。次に、リスクがあるプロジェクトでは三番目の行動ができないとだめだ。そして、課題が明確でないプロジェクトでは、さらに四番目の行動ができないとだめだ。最初の編成からチームビルディングと呼ばれる。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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