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第44回(2003.11.10) 
計測する(1)
 

 プロジェクトマネジメントで普通に使われる手法の開発時期を考えてみると、実は50年くらいの幅がある。PERTが考案されたのは1940年代であり、EVMが交換されたのは、90年代である。

 この流れを見て分かるように、プロジェクトマネジメントは当初は計画に重点がおかれていた。「気分的」にはこれはよく分かる。アポロ計画を考えてみてほしい。アポロ計画が始まったのは50年代であるが、ひょっとすると、これは今、タイムマシンを作ろうというプロジェクトに匹敵するのかもしれない。つまり、先がぜんぜん見えないのだ。
 書類棚から過去の書類を引っ張り出してきて、マネながら計画を作れるようなレベルのプロジェクトではないのだ。計画を作ることが(単に、見積もりが難しいといったレベルではなく)どれだけ大変なことであるかは容易に想像できる。

 ところが、プロジェクトマネジメントが企業活動に適用されるようになって、だんだん、プロジェクトマネジメントの重心が計画から、コントロールに移ってきている。基礎的な研究開発を別にすると、計画がぜんぜん見えないというプロジェクトは珍しい。そもそも、そんなことをしていれば、ビジネスとして成り立たない。受注の段階、あるいは、製品開発の段階では、ある程度の見通しがついていることが不可欠である。

 そうなると、計画を作ること自体への重要性は薄れ、関心はコントロールに移る。それに伴い、計画作業もコントロール作業からのニーズに影響される。つまり、計画精度(見積もり精度)を如何に正確にするかが計画の重要な要素になる。同様に、リスクをきちんと見極めることにも重要になる。

 この流れを作ったのはPMBOK(R)である。PMBOK(R)は、計画とコントロールのループによりプロジェクトマネジメントを進めていくというスキームを提示した。

 従来のスキームは、計画はマスターであり、いったん、確定させれば絶対的なものとして、如何に統制するかが問題になる。これに対して、PMBOK(R)では、計画は「仮留め」であり、プロジェクト実行とともに、コントロールの結果に基づいた計画作業を行う。いうなれば、「クローズなフィードバックプロセス」なのである(ただし、スコープ変更があると、オープンループになるのでややこしい)。

 さて、このようなフィードバックループをうまくコントロールするには何が必要か?「成果の正確な計測(あるいは推定)」である。ところが、これまで計測の部分にあまり注力されてこなかった。例えば、ビルを建てるとしよう。作業として、骨組みを作るとか、壁を作るとか、いろいろ、ある。しかし、どれだけ終わったかという計測は、結果論に近い。報告者はたとえば、「50%終わりました」とか報告するが、実は、50%の根拠は明確でない。つまり、計測の方法がない。

 ソフトウエアでは、よく、「未着手、着手、完成」という計測単位を使う。一つの作業のボリュームが小さければ、一つ一つの作業の誤差は出てこない。しかし、プロジェクト前提での累積誤差は出てくる。

 今年末には、OPM3がリリースされる。組織成熟度を上げていくのは重要なことである。しかし、組織の成熟度の原点は、「計測」である。コタツでセンサーが狂っている状態を考えてほしい。いくらコントロールが適切でも、いくら設定を適切であっても、決して心地よい温度になることはない。成果の適切な計測手段を持たないままで、組織成熟度の向上に進むということはこのような状態になることを意味する。

 ソフト業界に限って言えば、10人中、10人が納得している計測方法はまだありません。あなたのプロジェクトや会社には、適切な成果の計測方法がありますか?

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
初めてコメントを書かせていただきます。
PMについては、経験と度胸でやってきましたが、緻密さが必要ですね。
よい勉強になっています。
Mitaran(55歳・インストラクター)