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第39回(2003.08.18) 
モチベーションからコミットメントへ(1)
 

◆プロアクティブを引き出すマネジメント
 前回まで、2回続けて、プロアクティブという話をした。

 プロジェクトやプロジェクトのメンバーをプロアクティブにするにはどうすればいいのか?という問題に対して、「自責」、「自主」、「自立」の3つのキーワードを上げ、とにかく、「自ら行動し、考え、行動してみて、また、考える」だとした。

 プロアクティブというのを思想として捉えるなら、これでいいと思う。また、トヨタという会社を見れば分かるように、思想の延長線上にマネジメントがあるという見方もできる。

 反面、それではマネジメントにならないという気もしている。そこで、今回からは、プロアクティブをマネジメントとして実現するためにはどうすればよいかを考えてみたい。

◆プロアクティブを生むコミットメント
 プロアクティブをマネジメントとして実現する場合にキーワードは「コミットメント」である。コミットメントはマネジメントではあまり語られない。プロジェクトマネジメントでもモチベーションはしばしば話題になるが、コミットメントはあまり話題にならない。モチベーションと較べても、引き出すことが難しいのだろう。ジョン・カッツェンバックの「コミットメント経営」という本がダイヤモンド社から出版されているが、これが心理的コミットメントの引き出し方を議論した唯一の本ではないかと思える(重要性をうたっている本は何冊か出版されている)※。この本は基本的に事例調査を行い、その調査の結果、コミットメントの高い企業で行っている手法を5つに類型化している。

コミットメント経営―高業績社員の育て方

 ここではコミットメントのイメージを掴んでもらうためにこの本で取り上げられている事例を紹介しておこう。

 例えば、米国を代表するDIYのホームデポは心理的コミットで他を追従させない企業だそうで、ホームデポで心理的コミットメントの源泉になっているのは

 ・不満顔の顧客がうれしそうな顔になることで「満足感を得る」
 ・社員は息つく暇もないような環境でもまれている
 ・社員がお互いに尊敬と協力を惜しまず、本物の家族のようにまとまっている

の3つであり、これが競争力の源泉になっていることを発見している。

 ※この原稿を書いた時点ではそうだったのだが、昨日、多摩大学の野田稔先生の「コミットメントを引き出すマネジメント」(PHP出版)という新刊を見つけてしまった。この本も、カッツェンバックの議論をベースにしている。これを読んで一部、書き直した)

◆コミットメントとは何か
 そもそも、コミットメントとは何かということだが、カッツェンバックは前著である『「高業績チーム」の知恵』という別の本で、以下のように述べている(この本は、絶版されている)。
=====
高業績チームとそうでないチームの違いはコミットメントの度合であり、特にメンバー相互にどれだけのコミットメントが存在するのかという点で差が出るのである。ここで言うコミットメントとは、丁寧な言動やチームワークといったものを大きく超えたものである。それぞれのメンバーが、個人として、またプロフェッショナルとしての他のメンバーの目標達成を心から手伝おうとする
=====

と述べている。この説明は非常に気に入っているのでずっとこれを説明に使ってきたが、野田先生の本と読むともっと簡潔な定義があった。野田先生によると、モチベーションは「やる気」で、コミットメントは「本気」だと説明されている。コミットメントの訳で本気というのはフィットするので、この後はこの言葉を使う。本気のニュアンスはカッツェンバックの説明だと考えて欲しい。

◆コミットメントは永続的

 もう一つ重要なポイントは、コミットメントは永続的である点だ。これも野田先生の説明が分かりやすいので、それを紹介するが、モチベーションは作業限りのもので、せいぜい2〜3ヶ月、ある作業に熱中すること。コミットメントはもっと長期に渡って、仕事に熱中することだと説明している。

 前置きが長くなったが、ではなぜ、プロジェクトの行動をプロアクティブにするには、モチベーションではなく、コミットメントなのか?これは、簡単だ。モチベーションというのは使われる状態で必要とされるものであり、コミットメントは自責、自主、自立の中で必要なものだからだ。

◆プロジェクトにおけるコミットメント
 ただし、従来、プロジェクトマネジメントでは、ヒューマンマネジメントはテンションを上げて、短期間熱中させることにより、成果を出すという考え方で行われてきた。つまり、モチベーションを引き出すことが中心だった。しかし、これからはコミットメントを引き出さなくてはならない。そこにプロアクティブという話との接点もあるのだが、いわゆるプロジェクト型経営では次から次にプロジェクトに参加していく。すると、今までのような考え方では持たない。カッツェンバックはコミットメントを引き出すには、「企業の業績目標」と「社員の充足感を得るためのニーズ」のバランスが必要だと言っているが、このバランスが長期的に見れば悪いのがプロジェクトでもある。つまり、いくつかのプロジェクトを転々としているうちに、燃え尽き症候群のようになってしまうわけだ。そして、「本気」にならないことで自分の身を守ろうとする。これは人間の防衛本能だ。ここに、プロジェクトのクオリティやプロダクトのクオリティの悪さの原因がある。

 これを解消するためには、本気でコミットメントを引き出し、プロアクティブにしていくしかない。

◆コミットメントを引き出す方法
 その方法として、カッツェンバックは5つのパスを上げている。

 (1)ミッション、価値観、誇り
 (2)業務プロセスと評価尺度
 (3)個人の起業家精神
 (4)個人の達成
 (5)認知と称賛

なんとなく分かると思うが、プロジェクトマネジメントの中で具体的にどう実現していくかも含めて、また、次回に。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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