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第302回(2012.12.18)
コストマネジメントのあり方について考える


◆コストマネジメントのポイントは予備費

IT系のプロジェクトでは、プロジェクトマネジャーにスケジュールと品質のマネジメントを任せ、スコープとコストマネジメントは組織職が行っているケースがある。
今回は、プロジェクトマネジャーとプロジェクトリーダーという視点からこの問題について考えてみたい。

マネジメントとは、なんとかすることである。プロジェクトでは納期と予算という形でスケジュールとコストの制約条件が与えられ、目標としては、成果物やその品質、その他プロジェクトの目的に所以する目標(顧客を感動させるとか、チームメンバーの育成をするなど)が設定されることが多い。プロジェクトマネジメントは、プロジェクトに与えられた制約条件の中で、なんとかして目標を達成することである。分担でいえば、目的・目標や制約を決めるのがプロジェクトリーダー(プロジェクトスポンサー)であり、何とかするのがプロジェクトマネジャーである。

ソフトウエア開発を中心とするITプロジェクトにおいては、直接経費のほとんどは人件費であり、間接経費も直接経費に従量配賦するような会計システムをとっている企業が多く、コストマネジメントのある部分は工数管理で代替的に行っている。コストマネジメントをプロジェクトマネジャーに任さないという問題になるのは、予備費である。


◆プロジェクトコストの構造

議論の前に、プロジェクトコストの構造を整理しておく。プロジェクトコストは一般的には

契約金額+経営レベルコンティジェンシー+非契約予算

から構成される。経営レベルコンティジェンシーは、プロジェクトの不確実性に経営として対応するための費用である。たとえば、受注プロジェクトであれば発注先が倒産するといったリスクに対するコンティジェンシーになる。また、非契約予算は、販促費、営業費用など、契約の中には含めないが必ず発生する費用である。そして、契約金額から利益を引いたものが、プロジェクト予算になる。

プロジェクト予算は、

ベースライン予算+マネジメント予備

という構造になっている。ベースライン予算がいわゆる予算で、制約となるものである。マネジメント予備は予見できない状況に備えて予備として計画する予算であり、制約が守られない、あるいは目標が達成できない場合に、組織として対処する予算である。これはプロジェクトリーダーが持つ予算である。

さらにベースライン予算は

コントロールアカウント+コンティジェンシー予備

からなる。コントロールアカウントはWBSの中で定義されるものであり、コストコントロールの基本単位になる。問題はコンティジェンシー予備である。


◆マネジメント予備とコンティジェンシー予備を区別せずに管理する

コストマネジメントでは、まず、プロジェクトのさまざまな不確実性によってコントロールアカウントでコントロール不能になったときに投入するコンティジェンシー予備を投入する。コストマネジメントを行っていないケースのほとんどは、プロジェクトマネジャーにコンティジェンシー予備が渡されていない場合である。言い換えると、プロジェクトリーダーが、マネジメント予備とコンティジェンシー予備を管理している。

これではプロジェクトの不確実性に対処できないわけだが、実は組織はリスクは計画で対処するので実行に移ったプロジェクトには不確実性はないという前提に基づいてマネジメントを行っている。つまり、計画においてリスク分析を行い、リスクは認識している。一部のリスクに対しては回避をしてリスク対策は計画に反映されている。
一部のリスクについては緩和をし受容しているが、受容しているリスクは発生しないと考えているのだ。「万一、発生した場合には、マネジメント予備から支出するので相談してくれ」というスタンスなのだ。


◆プロジェクトマネジャーにコストマネジメントをさせるべき

このマネジメントの構図は恐ろしい構図で、コストに影響が出てくるような状況になるまで、初期計画で突っ走ることになる。そして、トラブルが起こったときに、プロジェクトスポンサーに相談し、問題解決を行う。これはプロジェクトマネジャーがマネジメントをしているとはいえない。マネジメントの語源は暴れ馬に乗りこなすことらしいが、両手を縛られて馬に乗れといわれているようなものである。プロジェクトマネジャーは計画に従って管理をしているだけで、本来のマネジメントはプロジェクトリーダーがしていることになる。

上に述べた工数管理をしていればコストマネジメントができるとか、今はコンティジェンシー予備がとれるようなプロジェクトはないのでマネジメント予備で複数のプロジェクトをカバーするのが合理的であるといった理由はあるにしろ、この形がプロジェクトとして健全だとは思えない。

もし、契約予算が小さくでコンティジェンシーが取れないのだとすれば、コントロールアカウントを絞って、ネットの数字で見積もりをすべきである。リスクをまとったグロスの数字を使っていることを正すべきだ。

初期計画を組織としてレビューしているので不確実性はなくなっているというのは勘違いであるし、マネジメント予備だけで不確実性への対応をすることがプロジェクトにリアクティブなマネジメントをさせていることを改めて認識すべきだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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