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第29回(2002.01.06) 
ミーティングの効用
 

 プロジェクトにおけるミーティングの必要性はいまさらいうまでもないであろう。ミーティングがなくてはプロジェクトは進まないといっても過言ではないだろう。

 しかし、よくよく考えてみると、ミーティングというのは一種の「必要悪」である。つまり、必要なのであることは分かっているが、もしやらなくてすむものであれば、やりたくないのがミーティングであるのも事実だ。現に、著者は、ソフトウェア開発でモジュール化を工夫することによって、ミーティングの時間を減らすことを心がけているプロジェクトマネージャーを知っているし、進捗管理においても、問題がない場合は進捗会議を行わない主義のプロジェクトマネージャーも知っている。たしかに、こういう考え方も一理ある。

 一方で、そのようなやり方の弊害を指摘する人もいる。たとえば、進捗会議を行わないと、正確な進捗が得られないという意見も少なくない。もちろん、こちらがマジョリティなのだろう。

 さて、プロジェクトにおけるミーティングの目的はどのようなものだろうか?一義的には、進捗情報や技術情報、ステークフォルダに関する情報などの「ほう・れん・そう」(報告・連絡・相談)の機会を作り、プロジェクトの成果物のQCDの達成であることは間違いない。そう考えると、上に触れたように何とかミーティングを排除しながら、所定のQCDを達成しようと考えるプロジェクトマネージャーが出てきてもおかしくない。

 しかし、現実問題として、ミーティングが皆無のプロジェクトというのは「一人プロジェクト」でもない限り、考えにくい。そこで、何とか効率的にできないものかと考えるわけだ。そこを一歩踏み込むと、ミーティングを戦略的に活用できないものかと考えることもできるだろう。この場合、戦略的であるとは、計画以上の成果を達成することを意図的に狙うことを言う。ここに「必要悪」と見るかどうかのひとつの分岐点がある。

 ミーティングの戦略的役割は大きくは二つあるのではないだろうか?一つはプロジェクトの組織をチームとして作り上げていく役割である。いわゆるチームビルディングの場としてのミーティングの活用である。この役割においては、基本となるのは「ほう・れん・そう」であろう。計画の周知徹底、プロジェクト方針の周知徹底、顧客の要求の周知徹底を行うことが基本になる。これらの過程で発生する一つ一つの情報の解釈に載せる形でプロジェクトの憲章をチームに浸透させていき、同じ目的に向かって行動するチームを作り上げていくような活用方法である。

 もう一つは、単なる「ほう・れん・そう」を超えた、チームが成長するための場として活用することである。「ほう・れん・そう」は基本的には、「知識」と「情報」を対象にしているが、もうひとつの重要な要素が「知恵」である。
 組織としての視点からは、PMBOK(R)でも終結フェーズではレッスンラーンドがうたわれており、クールダウンミーティングなどによりプロジェクトで得られた「知見」をプロジェクトマネージャーやメンバー個人の「経験」に転換し、組織としての「知恵」に昇華させていくプロセスが設定されている。しかし、言ってしまえばこれは次のプロジェクトに向けての話であり、プロジェクトの活動を通じてチームが成長して、「知恵」を出していかない限り、そのプロジェクトのゴールにたどり着けないケースも少なくない。そのような場合、「知恵」を生み出すプロセスとして必要になるのは、「チームとして問題解決を行う」ことである。チームとして問題解決を行うことより、チームとしての「知恵」が得られ、チームは成長する。チームとしての問題解決の手法には、「ノミナル・グループ手法」などの手法があるが、これについては、別途、「プロジェクトマネジメントのための問題解決」シリーズで取り上げることにする。

 プロジェクトの成功要因の60%以上がコミュニケーションであるというデータがあるそうだが、これは単に情報の伝達がうまく行っているだけの意味ではないだろう。プロジェクトチーム内、あるいは、顧客とのコミュニケーションがうまく行くということは、そこに一定の土壌(コンテクスト)ができているということである。それは、顧客の意思をきちんと理解し、把握できるということであり、また、チームの内部においては情報をチームのメンバー全員が同じように認識できるということである。そこまで含めて、そのための手段となるのがミーティングであると考えるべきだろう。

 このように考えてみると、プロジェクトにおけるミーティングは「必要悪」だとはいえない部分がある。少なくとも、プロジェクトチームを作り上げていき、また、チームの能力を向上させていくことがプロジェクトの成果を得るために不可欠だとすれば、ポジティブな意味で必要なものだといえよう。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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