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第277回(2012.02.07)
チェックリスト考

◆チェックリストは網羅的に作るものではない

チェックリストは誰でも知っているツールである。しかし、実体は意外と理解されていないのではないかと思う。たとえば、プロジェクトマネジメントの中でもっともチェックリストが使われているのはリスクマネジメント(リスクチェックリスト)だろう。多くの企業がリスクチェックリストを使って、リスクマネジメント計画を作っている。

では、リスクチェックリストをどのように作っているかというと、結構、考え方の違いがある。多いのは、網羅的に作るという方法である。とにかく、チェックリストをみれば考えられるすべてのリスクの有無が判断できるという狙いだ。その対極にあるのが、少数派ではあるが、必要最小限押さえておいてほしいリスクだけをチェックリスト化する。

リスクマネジメントとしてどちらがよいかではなく、チェックリストとしてどちらが適切かというと後者である。前者のものはチェックリストとは言わない。

リスクに限らず、チェックリストと聞くと多くの人が面倒だとか、厄介だという印象を持つ。それは、チェックリストに記載されていることは実施しなくてはならないからだ。と同時に、チェックリストの作り方が網羅的だからだ。


◆飛行機の緊急時のチェックリスト

網羅的なものがチェックリストとは言えないことを示す一番分かり易いは飛行機の緊急時のチェックリストである。飛行機は業界としてチェックリスト化が進んでおり、パイロットや乗務員の教育においてもチェックリストが使われるそうだ。そして、トラブルがあったら、まず、チェックリストを確認するという行動規範ができていくという。

緊急時にすべきことはたくさんある。チェックリストはその中で、数にしてせいぜい10項目である。それ以上の項目があると、緊急時に役に立たない。もし、あなたがチェックリストを作るとしたらどのようにして選ぶだろうか?


◆決めれないので、網羅的になる

話は脱線するが、日本人は戦略的行動ができないとよく言われる。ものごとで、同じくらい重要なことが複数あったときに、優先順位を付けることができない。そのため、決めなくては仕事が進まない立場に置かれた人(大抵は現場)が決めて、進めることになる。

このような人たちがチェックリストを作るとどうなるか?網羅的になる。網羅的に作るので、当然現場では使い物にならない。そこで現場はその中から、必ず、チェックするものを決め、独自のチェックリストを使って仕事を進めていくことになる。プロジェクトマネジメントでもまさにそういうことが起こっている。

これでは、チェックリストを作る意味がないことは飛行機の緊急時のチェックリストを考えてみればよく分かる。


◆チェックリストの作成の考え方の例

チェックリストの項目を選ぶにあたっては、重要性と関連性がポイントになる。たとえば、プロジェクトの計画変更を行うときのチェックリストの一部を考えてみよう。

・変更の前提の整理(1)
・変更内容の整理(2)
・変更のスケジュールへの影響分析(3)
・変更のコストへの影響分析(4)
・変更のリソースへの影響分析(5)
・関係者の抽出(6)
・関係者への打診(7)
・・・

というふうに網羅的に書きたくなる。実際にこのように作っている企業も知っている。ところが、これはいくつかの点でナンセンスである。たとえば、(2)の内容の整理はチェックリストにないからやらないということは考えられない。あるいは、(3)〜(5)の影響分析を考えてみると、(3)のスケジュールへの影響分析を行えば、コストやリソースへの影響分析は当然行うことになる。あるいは、(7)の関係者への打診を行うには、(6)の関係者の抽出をすることは不可欠である。確かに、網羅的に変更管理の作業をマニュアルとして書いていくと上のようになるのだが、チェックリストはマニュアルではない。マニュアル(標準)があれば、マニュアル通りに行わせるためのチェックリストなのだ。

そのように考えると、チェックリストとしては

・変更の前提の整理(1)
・変更のスケジュールへの影響分析(3)
・関係者への打診(7)
・・・

の3つの項目で十分である。重要性の観点からみても、この範囲では、この3つだろう。このように、チェックリストの項目は、重要性と関連性を配慮して決める。


◆リスクチェックリストはどう作るべきか

同じように冒頭で話題にしたリスクチェックリストを考えてみると、リスクの重要性は影響度で見るべきだろう。また、発生頻度が高いリスクは、プロジェクトマネジャーがメンバーとしてプロジェクトに参加しているときにも経験しているはずで、見落とすとは考えにくいので、チェックリストに含める必要はない。

つまり、チェックリストとして押さえておきたいのは、影響度が大きく、発生頻度が低いリスクだということになる。

このようにチェックリストを作ったり、プロジェクトに提供することは、プロジェクトマネジメントとして、メリハリを利かせていくためにきわめて重要である。この話はまた、別途、議論したい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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