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第275回(2011.01.31)
ビーイングのプロジェクトとビカミングのプロジェクト

◆ビーイングとビカミング

ものごとの捉え方には、固定的、かつ静態的なビーイング(being)と、流動的、かつ動態的なビカミングがあるというのは、知識創造で著名な経営学者・野中郁次郎先生の説である。

たとえば、昨年大ブレークしたノンアルコールビールがある。もともとあった微アルコールビールは、車を運転している人、お酒がダメな人が、ビールで乾杯するときに飲む商品だった。市場の設定としては、ビーイングな設定をされていたし、そのようなマーケティングしかされなかった。実際に見かけるのはドライブインとか、飲み屋だった。

ところが、大ヒットしたキリンフリーでは、ユーザが用途をどんどん拡大していった。一度飲んだ人が飲む場面を考える。非常に印象的だったのは、高速のサービスエリアにビバレッジとしておいてあったこと。これまでは本当はビールを飲みたいけど、自動車なのでノンアルコールビールだったのが、ドライブのときの飲み物になってしまったのだ。このように経験や環境変化でユーザ自身がどんどん変わっていく。これがビカミングである。


◆プロジェクトはビーイングからビカミングへ

プロジェクトの捉え方にも、ビーイングとビカミングがある。一旦、スコープや制約条件(目標)を決めたら、絶対に動かさないようにするのがプロジェクトだとするとらえ方。状況に応じて変わっていくのがプロジェクトだとするとらえ方。

プロジェクトマネジメントはビーイングだと捉えて行われることが多い。ピラミッドの建立から始まり、原爆、ロケット、プラントと、プロジェクトマネジメントの必要は理由は、仕事の規模であり、新規技術であり、それゆえの不確実性だった。つまり、内発性の不確実性だった。内発性の不確実性に対しては、マネジメントとしての重要性は如何にビーイングにするかにある。

ところが、情報システムにプロジェクトマネジメントが適用されるようになってきたころから、少し傾向が変わってきた。これまでビーイングであったものは依然としてビーイングが求められる一方で、不確実性が外発性のものになってきたのだ。もちろん、プラントなどの場合にも、たとえば、為替変動といった外発的な不確実性はあったが、それはリスクの範囲であった。しかし、情報システムなどにみられる外発性はスコープの不確実性による部分が大きく、従来のようにビーイングとしてとらえようとするとうまく行かないケースが増えてきた。そこで、ビカミングを指向するプロジェクトマネジメントが必要になってきた。言い換えると、変化を前提にしたプロジェクトマネジメントである。


◆ビカミングとしてのプロジェクト

ビカミングとしてプロジェクトをとらえるには、

世界はすべて互いに関連しあったプロセスで成り立っている。したがって、世界は常に動き続ける出来事の連続体である

という哲学者・ホワイトヘッドのいうような世界観が必要になってくる。ホワイトヘッドの考え方を実践レベルで考えるとシステム思考である。

このような考え方のプロジェクトマネジメントの代表格は、アジャイルプロジェクトマネジメントである。アジャイルプロジェクトマネジメントにはビーイングは存在しない。スコープもスケジュールもコストもすべてビカミングである。


◆なぜ、ビーイングにしたいのか

ちょっとここでなぜ、人はなぜものごとをビーイングとしてとらえたがるのかを考えてみよう。簡単だ。全体が見えるからであるし、全体を見ていなくても影響は限定的だからだ。たとえば、コストがとんでもなくオーバーしたとしよう。普通に考えれば経営への影響というのが出てくる。経営への影響がでてくれば、それだけでは済まない。株主への影響も出てくる。株主への影響がでてくれば、プロジェクトもただでは済まない。

こういうややこしい影響の連鎖を起こさないようにするには、プロジェクトの影響が外に出ないようにQCDSの範囲で調整する、もしそれができなければプロジェクトの主幹部門の中で調整するといったコントロールの網を最初から引いておくわけだ。

ビカミングだとそうはいかない。どこまで影響が及ぶかは別にして、プロジェクトに関連する要素、つまり、ステークホルダ、成果物、QCDなどの関係性をコントロールしながら進めていかなくてはならない。気の遠くなるような話だが、これを可能にするのがシステム思考である。関係性を把握し、望ましい関係性を保ちながらプロジェクトを進めていく(メンバーが活動していく)。

ここで関係性が望ましいかどうかの判断基準が必要になる。それが戦略目標であり、プロジェクト目標(制約条件ではない。制約条件下でプロジェクトが自ら設定するQCD等の目標)である。戦略目標やプロジェクト目標をクリアしていれば、関係性のあり方としてはOKということにする。


◆ビカミングに不可欠なシステム思考

ITの世界でも基幹系では、ビーイングのプロジェクトマネジメントが求められるが、ウェブになるとビカミングのプロジェクトマネジメントが必要になってくる。特に、最近話題のなっているキュレーションを行うようなプロジェクトではビカミングのプロジェクトマネジメントは必須だといってよい。

ここまで読んでこられて、

ビーイング:PMBOK(R)
ビカミング:アジャイル

という印象を持たれた方がいらっしゃると思うので、修正しておく。PMBOK(R)は本質的にはビーイングだと思うが、今のフレームワークで十分、ビカミングのプロジェクトマネジメントが実現できる。

そして、ビカミングのプロジェクトマネジメントの枠組みがなんであれ、その枠組みの活用の巧拙を決めるのはシステム思考だと言える。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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