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第26回(2002.11.25) 
学習するプロジェクト(1)〜学習とは
 

◆プロジェクトマネジメントと学習
 PMBOK(R)にはレッスン・ラーンドという概念がある。また、組織成熟度という概念もある。このような概念と学習にはどのような関係にあるのだろうか?

 たとえば、組織の成熟度と学習の関係について考えてみよう。OPM3を見ると、
 標準化→測定→統制→継続的改善
の4段階になっている。ほかの指標をとっても基本的にはこの構造になっている。これは組織学習という視点でみればどのようなものになっているのだろうか?

◆アージリスの学習理論
 その前に、学習の一般的な考え方について説明しておきたい。組織論の学者であるアージリスは学習をルール(「解釈枠組み」と呼んでいる)の変更を伴うかどうかによって、「シングルループ学習」と「ダブルループ学習」とに分類した。個人や組織は情報やデータを受け取ると、自らの「解釈枠組み」によってよって新たな知識を獲得する。「解釈枠組み」というのは、その情報を自分自身がそのように認識するかというものである。この「認識」は人によって違う。たとえば、ある作業をするのに100時間の見積もりをし、それに対して実際に100時間で作業できたとしよう。ここまでは「事実」である。ところが、この事実の解釈は人によって異なる可能性がある。Aさんは、見積もりというのはきちんと出来るものであると考えていたとしよう。これがAさんの「解釈枠組み」である。するとAさんは、「事実」を知って、やっぱり当社の見積もり手法はよいのだという知識を得ることになる。ところがBさんはそもそも見積もりなどあてにならないと思っていたとしよう。すると、Bさんは同じ情報から、その担当者の能力が優れているという知識を得るだろう。

◆人や組織は知識を得て、使う
 いずれにしても、個人の知識はこのようにして生み出されていく。そして、個人は自らが持つ知識に基づいて意思決定や行動を行う。つまり、Aさんは次回も同じ要領で見積もりをするだろう。また、Bさんは、見積もりと実績の差などに興味を示さず、ここぞというときには見積もりなど信用せずに、過去にうまくやった人を使おうとするだろう。

◆シングルループ学習
 ここで重要なことは、その意思決定や行動の結果を解釈し意味付けることによって「解釈枠組み」が作られていくことである。これが学習なのだ。つまり、Aさんは次回も、また同じように見積もりをし、それで同様の結果が得られれば、その見積もり手法に対する信頼も高くなる。このように、ある「解釈枠組み」の中で、やり方が強化されるような学習を「シングルループ学習」と呼ぶ。

◆ダブルループ学習
 これに対して、Bさんも、最初はたまたま、その人だから出来たと考えていたとしても、また、別の作業者が見積もりどおりに作業が終えたのを聞くと、「ひょっとすると見積もりは当たるのではないだろうか?」と徐々に考えるようになるだろう。すると、見積もりと実績の差異という情報に興味を示すようになる。そして、ついには「解釈枠組み」を見積もりはできるというものに変えるだろう。このように、「解釈枠組み」そのものを変えるような学習もある。これを「ダブルループ学習」と呼ぶ。

◆OPM3(R)の学習
 さて、もう一度、OPM3(R)の話に戻る。OPM3(R)はプロジェクトマネジメント標準に対する「シングルループ学習」である。もし、標準どおりにできなければ是正がされ、その是正行為によってプロジェクトに関与する人たちは決められた標準でできるように学習をしていく。ここで微妙なのはレベル4の継続的改善である。これはダブルループ学習を意味しているようにも見えるが、たとえば、見積もりのプロセスを変えるといった範囲のものなので、あくまでも解釈枠組みの強化のためにプロセスを変えることが主眼であり、シングルループ学習だと考えるのが妥当だろう。

◆プロジェクトマネジメントではシングルループで十分か?
 ここで考えなくてはならないことは、このような学習方法で、不確実性の増大といったプロジェクトマネジメントの前提の変化に対応できるか?という点である。PMBOKという手法は、フェーズという概念を導入し、プロジェクトマネジメントプロセスをモジュール化することによって、プロジェクトがどのような性格を持っていてもマネジメントフレームワークとして機能するように考えられている。つまり、「マネジメントできる」という解釈枠組みがとても大きい。
 しかし、ニューウェーブプロジェクトマネジメントのひとつのパターンとして考えているようなコーディネートだけで、メンバーが自律的に自己管理をし、プロジェクトが進むようなプロジェクトのマネジメントでは、その「解釈枠組み」を打ち破る必要がある。そこでは、シングルループ学習ではなく、ダブルループ学習が求められる。言い換えると「組織学習」が必要なのである。この問題を何度かに分けて考えてみたい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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