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第244回(2011.02.11)
「真摯さ」について考える

◆真摯さと成果

プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)がプロジェクトに対して何ができるかという議論は今でも、オープンな問いである。もっとも、そんなことは考えなくなっている組織が多いが。

この議論のポイントは、「真摯さ」という意味での正しさと、成果を上げるという結果の正しさの折り合いの付け方にある。

昨年来、ドラッカーが注目されるようになり、「真摯である」ことの意味が見直されるようになってきた。ドラッカーのリーダーは、リーダーの資質など存在しないという立場に立っているが、唯一、リーダーの資質としているのが、真摯さである。

真摯さの定義は難しい。何が正しいかを考え、誰がどう思おうと気にせず、正しさの実現を求めていく。そんなところだろうか。さらにいえば、正しいことは独善であってはならず、共通善である必要がある。

成果を示す概念に、アカウンタビリティという概念がある。これがまた、わかりにくい。日本語では説明責任といったり、成果責任といったりする。実は、両方正しい。成果を上げたと言えるには、取り組んでいることが正しいことを説明できなくてはならない。そのためには、何が正しいかを考えておかなくてはならない。これが真摯さである。


◆キャリアにおける真摯さの壁

プロジェクトマネジャーの大半は、エンジニアなどのキャリアを歩んでプロジェクトマネジャーになっていく。IT系の組織だとほぼ例外なく、そのようなキャリアである。エンジニアからプロジェクトマネジャーになるときに、多くの人が当たる壁が真摯さの壁である。

今では少し状況が変わっているが、技術的な世界では正しいことは自明であり、それを追及していれば真摯であり得た。

ところが、マネジメントの世界は正しいことが自明であるケースは珍しい。ほぼ、ないといってもよい。そこで、「正しい」ことを組織として定義する。それが、ビジョンやミッションであり、戦略である。

ただし、現場でビジョンや戦略に対して何が正しいかというのは、技術のように明確ではない。そこで、バランススコアカードのように、階層的に正しいことを限定していく。それによって、現場レベルでは、ある程度正しいことを示唆できるようにする。

しかし、それでもあいまいである。これが、「マネジメントには正解はない」と言われる所以でもある。ゆえに、ドラッカーのいうように、リーダーには「正しさ」を追及する真摯さが求められる。


◆正しいことと成果

ここで問題は、「正しい」ことが成果に直接的に結びつくかどうかである。実は、ここに真摯さの壁がある。技術的な仕事では技術の適用プロセスが正しければ、正しい結果がついてくる。つまり、成果がついてくる。そのときの技術の状況で、成果に貢献する期待はあるが,実現できるかどうか分からない技術(未確立技術)であれば、そのときには成果はついてこないかもしれないが、技術的に確立されれば成果は確実に得られる。本質的に答えがあるのだ。

これに対して、マネジメントでは、同じ状況は二つとなく、ある問題でうまくいった方法が類似の別の状況でうまくいくという保証はない。つまり、本質的には答えがない。だから、プロセスの構築やフレームワークの構築に意味がないということではないが、技術的プロセスやフレームワークのように、その通りやればうまくいくものではないことを理解しておく必要がある。


◆マネジメントでは、成果より、真摯さ

そのような前提で考えた場合に、どういうプロセスや枠組みでやれば結果的にうまくいくかを徹底的に追及することが重要なのではなく、何が正しいかを追い求め、結果としてうまくいかなくても受容し、次のチャレンジに結び付けていくことこそ、重要であり、そのような真摯な態度ことが求められる。

ここで重要なことは、技術における失敗を生かすこととは違うことを理解しておかなくてはならない。技術における失敗は前進である。失敗することによって不確実さが一つ消え、次に成功する確率が高まる。技術の進歩とはそういうものだ。ところが、マネジメントにおける失敗はそれだけでは進歩ではない。失敗するマネジャーは失敗を重ねる傾向があるといわれるのもそのためだ。失敗を生かすためには、失敗を受け入れ、洞察することが必要である。

技術であれば、「失敗だった。次はここを変えてみよう」で次に成果が得られる可能性が多いが、マネジメントにこの発想は通用しない。その失敗が「正しいと思っていること」に示唆しているものは何かをきちんと整理し、その上で新しい方法を考えないと次に成果が得られる確率は現状と変わらない。これが洞察である。


◆技術からデザインへ

さて、技術とマネジメントを対比しながら、真摯さの重要性を述べてきたが、二つ付け加えておきたいことがある。一つは、この議論はソフトウエア技術では成り立たない部分がある。ソフトウエアは目に見えず、また、自然法則が作用しないという特徴がある。論理的ではあるが、セマンティクスはほとんど持ち込まれていない。つまり、現実的にまったく無意味なロジックを組んでも、ある範囲では正しく機能する。これがバグが完全になくならない理由である。完全なロジックを作るために、セマンティックスを持つプログラム言語を作るという試みは数十年前からあるが、あまり進展していない。

そこで、メトリクスやモデリングなどの手法を総動員して、可視化をして扱う。可視化で成果を出すためには、真摯さが不可欠である。これが一点目。

もうひとつは、技術的な意味での正しさというのは、マクロにみれば社会的なものである。成長している社会では、技術的な正しさというのは技術による経済的な効用を高めることである。このためには、どんどん、コストパフォーマンスを上げていくことが「正しかった」。しかし、サスティナビリティが問題になってくる社会では、状況は変わってくる。コストパフォーマンスだけが正しいとはいえなくなってきた。その典型が環境的側面である。

その意味で、技術により成果を求める場合にも、真摯さが問題になってくるような時代が来ている。つまり、何が正しいかを考えた上で、技術的に問題を解決していく。イノベーションの推進力が技術ではなく、デザインだといわれるようになってきたのは、その表れであろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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