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第206回(2009.03.10)
目標管理とプロジェクトマネジメント |
◆目標管理の本来の意図
昨日、第5回のPMstyleプライベートセミナーを開催した。戦略ノートでは現在進行形のスレッドがあるが、ちょっと脱線して今回は、セミナーで話題になったこのテーマについて意見を述べたい。
目標管理という考え方を作ったのはドラッカー博士であり、その真意が社会に理解されず、心を痛めていたというエピソードがある。ドラッカー博士の意図は、組織の成員が自身の明確な目標を持ち、それを自律的に管理しながら達成していくことだった。
ところが、現実には統制のツールになっている。と書くと、クビをひねる人もいると思う。上司とのコミュニケーションツールになっているのだと。
目標を抽象化すればするほど、目標管理は統制のツールではなく、コミュニケーションのツールの色彩が濃くなり、管理される側にとってもそれなりの意義のある制度になっているように思う。日本の国では成果主義がボロクソに言われているのに、目標管理そのものにそんなに批判がないのは、そういうことではないかと考えている。
そのような目標管理はある意味で、ドラッカー博士が意図したものと近く、また、成果主義とは一線を画したマネジメントツールだともいえる。
◆プロジェクトマネジメントの導入意図
ただし、本当にそれでよいのかというのが根本的な疑問も残る。この5年ほど、国を挙げてプロジェクトマネジメントだと大騒ぎしてきた。少なくとも、IT、製薬、製造業では相当に導入が進んでいる。現場でみればプロジェクトマネジメントなのだが、経営的にみればプロジェクトマネジメントのニーズは実は業界によって異なる。
大きく分けると2つあって、労務管理と成果管理。
◆労務管理の意味と現実
労務管理というのはちゃんと仕事をさせることだ。具体的には決まった生産をさせ、品質を保つためのツールである。要は、オートメーションのような定型化ができない非定型業務の標準化による管理である。これは、IT業界を中心としたニーズである。
ただし、本来、労務管理というのは成果を求めないものである。つまり、社員が一生懸命働いている限りにおいて、成果が生まれないことは経営側の責任とすることが基本だが、PMBOKではスコープという概念にトリックがあり、労務管理を基本としながら、成果管理もある程度できるような仕組みになっているので、PMBOKを導入している企業では現場が混乱していることが多い。また、成熟ということでいえば、ラインマネジャーがプロジェクトをマネジメントするときに、マトリクスの落とし穴に陥っているケースが多く、そこでも、労務管理と成果管理の混乱が起こっている。
◆成果管理の意味と現実
もう一つの成果管理は、文字通りに仕事の成果の管理で、きちんと成果を出すことを求めるものだ。この場合の成果というのは、作業成果とは多少異なる。経営戦略に対する成果、つまり、戦略の実行にコミットしていることが求められるのだ。
例えば、担当したプロジェクトが何らかの理由で赤字になったとしよう。増益を戦略に掲げている企業であれば、このプロジェクトは成果にならない。したがって、経営側が何らかの介入をする。しかし、顧客ロイヤリティの向上を戦略目標に掲げている組織であれば成果になることはある。
このように成果管理というのは戦略あっての成果管理である。明確な戦略を持たない、あるいは戦略が末端まで伝わっていない組織では、増益増収がデフォルトになってしまっているので、プロジェクトは大変に苦労する。そもそも、戦略は単純に増益増収ができないような市場環境であるからこそ必要なのだ。
このようなニーズを持ってプロジェクトマネジメントを導入したのは製薬と製造業である。
◆一度、徹底的にやってみるべき
さて、いずれにしろ、管理したいことを徹底的に細分化して、個人に作業担当と責任を割り当てて、管理していくのがプロジェクトマネジメントである。そして、企業にいる限り、プロジェクト業務に従事している限り、この担当と責任から逃れることはできないし、目標として表面化されるものは別のものでもいいが、その目標が達成されることによって、この担当と責任を果たすことができることを「論理的」に説明できるべきである。
コミュニケーションがこのような目標を作るために行われていればよい。もし、そうでなく、例えば、逆に責任の不明確化とリテンションのような目的で行われているのだとすれば、改めるべきだろう。
そのように考えたときに、目標管理をドラッカー博士が意図したように進めていくためには、できるだけ、プロジェクトマネジメントを細かくやる必要がある。抽象的な組織目標から、抽象的な個人目標につなげていくことをすべてのメンバーに求めることは酷である。リーダークラスの人でも全員はできないだろう。
すると、一度、個人の担当と責任まで落とし込み、その上で、個人が担当と責任を見て、何を目標として行えばよいかをボトムアップでくみ上げていく。このステップが必要である。そこに、初めて本当の意味での動機が生まれるのではないだろうか?
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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