第205回(2009.02.17)
思想としての「プロジェクト」

◆「プロジェット」と「プロジェッティスタ」

プロジェクトの特徴はPMBOKに述べられている、有期性、新規性(一回性)、段階的詳細化などで語られることが多いが、プロジェクトというのはもともとは「思想」だった。この点を忘れてはならない。今回は、多少、哲学的な議論をしてみたい。

産業においては、労働の細分化をし、工業化をしていくという大きな流れがあったわけだが、プロジェクトはそれにあらがうものである。つまり、すべてを包括的に捉えようとしている。

このことは極めて重要である。

今でこそ、自動車をはじめ、数々の分野で誇らしいデザインを創造し続けているイタリアで、「デザイン」、「デザイナー」という言葉が使われ出したのは1980年代以降だそうである。それまではなんと言われていたかというと、「プロジェット」、であり、プロジェットする人「プロジェッティスタ」であった。


◆製品だけではなく、関係性やプロセスすべてがプロジェクト

イタリア人が工業製品においてプロジェットという言葉にこだわり続けていたのは、彼らの仕事では、モノを作るということは、単に形を作ることが目的ではなく、「包括的な知」と、異なる分野で働く人々を多様な形で巻き込むことにより、日常生活で使う道具から、生活をする場所まで総合的に捉えようとしたからだという指摘がある。

そして、この中で生まれてくる関係性やプロセスすべてが「プロジェット」なのだ。

日本の職人とイタリアのデザイナーが似て非なるものである理由がここにある。日本の職人は刀職人に代表されるように内面に深く入っていく。これに対して、デザインは外部性にこだわる。システムにこだわるといってもよい。

プロジェクトの本質は関係性へのこだわりにあると思っている。米国の企業は外部性も形式化したがる。コミュニケーションマネジメントはステークホルダマネジメントすら、形式化するPMBOK(R)などはその極みだといえよう。


◆コミュニケーションとコラボレーション

ここで、一つ考えてみたいことは、コミュニケーションとコラボレーションの関係である。コラボレーションという言葉はビジネスではあまり使われないが、

異なる立場や人による「共同作業」や、その「成果」

のことをコラボレーションという。コラボレーションという言葉には、「異質」と「成果」がついて回るが、この2つの間にあるのは、「計画」ではなくて、「計画された偶発性」ではないかと思う。

今、プロジェクトという場合には、コラボレーションではなく、コミュニケーションをベースにすることが多い。つまり、コミュニケーションによって同質なチームを作り、その中で共同作業をするというイメージが強い。

この認識は極めて重要である。例えば、SIプロジェクトは顧客とのコミュニケーションが重要であるという。ここで求められるのはコミュニケーションなのか、コラボレーションなのか?ケースバイケースだと思うが、顧客とのコミュニケーションがうまくいっていないと振り返りするプロジェクトをみていると、コラボレーションすべきところをコミュニケーションしかしていないので、結果としてコミュニケーションもうまくできないというケースを時々、見かける。


◆工業化と思想の両方が必要

前回、

プロジェクトマネジメント=プロデュース+プロジェクト管理

という方程式を示したが、プロジェクト管理に必要なのはコミュニケーションであり、プロデュースに必要なのはコラボレーションである。

よって、プロジェクトマネジメントに必要なのはコラボレーションである。そして、コラボレーションのあるプロジェクトが真のプロジェクトであるといえよう。

もう一度、最初に話を戻すが、「労働の細分化をし、工業化をしていく」というのは、PMBOKなどがやろうとしていることである。これ自体が間違っているとは思っていない。PMBOKが目指しているのは、「非定型業務の工業化」である。この対象には、モノや情報システムだけではなく、サービスも入るし、広い意味でのソフトも入る。

ただし、ここにすべてを収束すべきではないということだ。プロジェクト管理の目的は工業化であるが、プロジェクトマネジメントの目的は「思考としてのプロジェクト」を全うすることだ。

食物の世界で、天然と養殖が両立しているように、プロジェクトでも天然と工業は両立すべきなのだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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