第187回(2008.06.10)
過剰管理

◆はじめに

ブログ「ひとつ上のプロマネ。」の記事としてプロジェクトマネジャーの過剰管理を記事に書き出したのだが、どうも過剰管理の源流は組織にあるような気がしてきた。
それで
とりあえず、プロジェクトマネジャーによるメンバーの過剰管理の話題はあとにし、組織によるプロジェクトの過剰管理について、戦略ノートに書くことにした。


◆現場力が下がったので、管理強化をする?

過剰管理という言葉があるが、最近のプロジェクトマネジメントの活動を見ているとこの言葉を思い出すことがよくある。

そして、プロジェクトマネジメントに限らず、過剰管理の原因になっているのが過度なプロセス化である。今のプロジェクト現場の活動は、詳細に活動のプロセスを決めている。WBSを作るときに、プロセスを考えないと作りにくいくらいプロセスがあるし、WBSのテンプレートを使ってプロセスを定義しているような組織もある。

これだけだと何の問題もない。問題はこのプロセスに対して、各段階でさまざまな管理ドキュメントの提出を求め、さらにドキュメントに基づいたチェックのための会議体を増やしていくということが日常的に行われるようになってきている。つまり、活動のプロセス化だけではなく、その上に、どんどん、管理を乗せているところに問題がある。

「これではプロジェクト業務とはいえないのではないか」という疑惑を横におけば、誰でもできるようなプロセス化と管理強化により、業務運用の効率化と生産性の向上を図るためのこのようなやり方は悪いとは思わない。ただ、気になることがある。それは、「最近は現場力が下がってきて、このような管理をせざるを得なくなった」というものの見方である。

過剰管理の妥当性を言わんがための言い分であるとは思うが、それは違うだろうと言いたくなる。そのような現象があることは疑いようのない事実だと思う。ただ、この話は原因と結果が逆なのではないかと思うのだ。


◆現場力が下がってきた原因は過剰管理による思考停止にある

現場力が下がってきた主たる原因が過剰管理にあることは疑う余地もない。過剰管理と過度のプロセス化がもたらすものは思考停止である。

コンサルタントとして現場を見ていると、何か問題があるときに、表層的な解決方法をとっていることがあまりにも目につくようになってきた。解決方法までマニュアル化している組織も珍しくない。

たとえば

・生産性を上げる → (プロセス改善)、目標管理
・生産量を上げる → 要員調整
・品質を上げる → レビューの強化

といったことをワンパターンで繰り返している。これは思考停止以外のなにものでもない。思考停止は昔からあったのだが、厄介だなと思うのは、いまはびこっているのは「考えるふりをする思考停止」であることだ。


◆過剰管理とは何か

仮説を使ってものごとを進める中で、最初の仮説に基づく行動としてこのようなことをしているのであれば、考え抜く第一歩と見ることができる。しかし、それでうまくいかなければ、原因を振り返りもせず、同じことをより強力に繰り返す。1人でだめなら2人という風に同じことを繰り返す。これは思考停止以外のなにものでもない。

このように常識の範囲で原因を分析し、常識の範囲で教科書的な解決策を打ち出す。
これは、考えるといいながら、「思考のプロセス化」をしているにすぎない。過度のプロセス化はここまで来ているのだ。よく考えてみてほしいのだが、そんなことで解決がつくようであれば、誰も苦労しないし、ほとんどのプロジェクトは成功するだろう。

そんなことはない、このような問題解決の経験に基づくものだと反論したい人もいるだろう。が、今、問われているのは経験の質である。つまり、徹底的に考えずに、表層的・教科書的な対応に終始し、「ときと運が問題を解決してくれる」的な経験は経験とはいえないだろう。

そもそも、品質絶対などと唱え、コストベースラインを軽視するといった対応は問題解決にすらなっていない。途方にくれ、絶望感に駆られる中で、徹底的に考え抜き、仮説を立て、何度か試行錯誤を繰り返し、やっとなんとかベースラインを守る。これが経験というものだ。

しかし、過剰管理により、このような経験が難しくなっている。プロジェクトで起っている問題は、組織の中で1つ、ないしは2つ上のレベルにあげてしまうと、意外と簡単に解決することが多い。たとえば、何かトラブルが起こったとしよう。プロジェクトでやる限りは、やり方を変えるとか、若干、人を増やすとか四苦八苦するが、ひとつ上のレベルで考えれば、エース人材を一人投入することで片付いてしまうのは決して珍しいことではない。

この延長線上にあるのが、トラブル予防である。エース級の人材を何人か集めて、プロジェクトを計画段階から徹底的に分析し、議論し、成功するように設計していく。

こういうのを過剰管理というのだ。


◆過剰管理が招く問題

このようなことをしていると、経営レベルの生産性が下がってくるので、プロジェクトはうまくいき、収益が出てくるようになったが、事業としての利益はでないといったことになりかねない。また、仮に事業収益については何らかの工夫をして確保できたとしても、このようなシステムには持続的発展はない。

緊急避難的な対処だと考えてやっている組織もあると思うが、組織論の常識からすれば、この種の施策は麻薬的な効果があり、いったん、始めるとやめられない。その理由は、人材の空洞化が起こるためである。

長くなったので、続きはまた。

なお、プロジェクトマネジャーの過剰管理については、そのうち、ブログに書く。お楽しみに!

◆関連するセミナーを開催します
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ◆コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントのポイント   ◆7PDU's 
   日時・場所:【Zoom】2024年 11月 05日(火)9:30-17:30(9:20入室可)
       【Zoomハーフ】2024年 12月 18日(水)13:00-17:00+3時間
      【Zoomナイト】2025年 01月 22日(水)24日(金) 19:00-21:00+3時間
        ※Zoomによるオンライン開催です
        ※ナイトセミナーは、2日間です
        ※ハーフセミナー、ナイトセミナーは、事前学習が3時間あります。
  講師:鈴木道代(プロジェクトマネジメントオフィス,PMP,PMS)
  詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_pm.htm
  主催 プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
 ※Youtube関連動画「コンセプチュアルスキルとは」「コンセプチュアルスキルで行動が変わる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  【カリキュラム】                     
   1.VUCA時代に必要なコンセプチュアルなプロジェクトマネジメント
   2.プロジェクトへの要求の本質を反映したコンセプトを創る
   3.コンセプトを実現する目的と目標の決定
   4.本質的な目標を優先する計画
   5.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前の記事 | 次の記事 | 記事一覧
著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

メルマガ紹介
本連載は、「PM養成マガジン」にて、連載しております。メルマガの登録は、こちらからできます。
スポンサードリンク