第185回(2008.06.10)
プロジェクトマネジメントの業績とは何か?

◆メンバーに権限委譲していますか?

あなたがスキルの低いメンバーで実施するプロジェクトのマネジメントをすることになったと考えてほしい。そのときに、

・任せると心配で、手間がかかるのでつい自分でやってしまう
・任せるといろいろと不備が見えて介入してしまう
・下流工程、低付加価値作業だけを任せる
・プロジェクト成功の目処が立つまで目標達成を優先し、余力ができると育成する

といった行動をとることはないだろうか?もし、心当たりがあるとすれば、

プロジェクトマネジメントの業績とは何か?

という問題を考えてみてほしい。一見、当り前のような話だが、聞かれるとなかなか、こたえにくい質問ではないだろうか?メンバーに思い切って任せることのできないプロジェクトマネジャーで、この質問の答えを理解できている人は意外と少ないのかもしれない。


◆予定通りにプロジェクトを終わらせることがマネジメントの業績?

自分は専門家として突き破るキャリアを歩みたいと考えているエンジニアの人と話をするときに、よくこの質問をすることにしているのだが、大体、こたえることができない。エンジニアとしての仕事の貢献というのは明確である。ものを作ることそのものだからだ。

ところが、プロジェクトマネジメントの貢献というと、すぐに思いつくのは、要望されたスケジュールで成果を上げるようにするとか、予定された原価で成果物を仕上げるなどだろう。しかし、これらはプロジェクトマネジメントの業績とはいえない。マネジメントがなくても実現できる可能性があるからだ。

プロジェクトマネジメントの業績というのは何かを考える前に、プロジェクトマネジメントというのはどういうソリューションなのかを考えてみたい。戦略ノートでしつこく言っていることだが、プロジェクトマネジメントというのは、プロジェクトを成功させることに対して、一発必殺のソリューションではない。


◆プロジェクトマネジメントには答えがないという誤解

よく(プロジェクト)マネジメントには答えがないというが、この言葉の意味を勘違いしている人が多い。勘違いした意味とは、プロジェクトマネジメントの考え方は人によりけりで、正しいやり方があるわけではないという風に考えることだ。これだけではよく分からないかもしれないが、複数の答えがあると思っている人が多いのだ。

楽天的なのは悪いことではないが、マネジメントには正しい答えがないというのはそういう意味ではない。文字通りの意味である。すなわち、本当にプロジェクトをうまくやる方法などないのだ。だから、いろいろなことを組み合わせてやってみる。

その結果うまくいくこともあるが、次のプロジェクトで同じことをやってもうまくいく保証は全くない。


◆ベストプラクティスはプロジェクトマネジメントの業績

ここで不思議に思った人もいると思う。PMBOKのようなベストプラクティスというのものが世の中にはあるじゃないかという疑問を持つ人がいる。PMBOKというのは、プロジェクトをうまく進めるためのベストプラクティスではない。第一、そんなものは世の中にないのだ。あるのは、プロジェクトマネジメントの業績を上げることのベストプラクティスである。

そして、プロジェクトマネジメントの業績によって、プロジェクトの成功への寄与が変わってくる。言い換えると、PMBOKは、プロジェクトの成功にもっとも大きな寄与をするためにはプロジェクトマネジメントをどうすればよいかという問題に対するベストプラクティスである。


◆プロジェクトマネジメントの業績とは

では、プロジェクトマネジメントの業績とは何か?

・明確で達成可能なゴールの設定すること
・有能かつ有効なチームを作り上げること
・適切なリソースの獲得と活用を行うこと
・プロジェクトへの要求を明確にすること
・効果的な計画を策定し、計画に則ったコントロールをすること
・リスクへの早期対応をすること
・迅速なリカバリーをすること

といったことである。

これらは、技術的な業績と比べると、「成果物」の達成に対しては間接的な業績である。人間は、間接的な業績が不安になると、まどろっこしくなって直接的な業績を上げたくなる。たとえは違うが、総理大臣が、大統領的な活動をしたくなるのは典型的な例である。実は、総理大臣と大統領というのは、ひとつの政策を実現していくプロセスで、まったくやり方が異なる。

特に、組織の文化が未成熟だと、組織そのものがこのような間接的な業績を認めないこともある。

プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトマネジャーがマネジメントの業績というのをよく理解し、メンバーに徹底的に任せていく必要がある。とくに、スキルレベルの低いメンバーが多い場合には成長をさせなくては話にならないので、この点が重要であるといえよう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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