第183回(2008.05.27)
やりながら考えることの落とし穴

◆段取り八分の条件

さて、前回、段取り八分という話をしたが、段取り八分を成功させるためのもっとも重要な条件はなんだろうか?

 段取りを取るための時間を計画に入れることである。

ちょっと脱線するが、著者が会社に勤めていた時代は、仕事の始まる前(始業前)にその日の段取りをしておけという時代だった。仕事時間は作業をする時間であって、考える時間ではないという発想である。これは段取りに限ったことではない。

1週間ほど前に、トヨタがカイゼン活動を勤務時間に含めるという方針を発表したが、トヨタのような「考える」企業でもこれまで考えることを仕事だと認めてこなかったわけだ。日本の製造業にはこのように考えたり、あるいは生産性を上げることそのものは仕事としてやるものではないという発想は根強くある。社名を上げることはできないが、プロジェクト計画を勤務時間中に作ることを禁じている企業すらある。


◆余裕があればする?

このような風潮が、段取りや改善を軽視し、「余裕があればする」といった考えをもたらしていることは否めない。

そうではない。余裕がないから、段取りを取ることによって余裕を生むという発想が必要である。

前回の例をもう一度、考えてみよう。

(1’)あらかじめメニューを考え、冷蔵庫の中を確認して何が足らないかをチェックし、足らないものをメモして買ってくる
(2)とりあえず、スーパーに行き、商品をみながら何を作ろうかと考え、必要な材料を買う

の例。

(1’)と(2)はどちらが時間がかかるか?たぶん、(1’)だという人が多いのではないかと思う。その通りである。しかし、ここに

 「きまったものを作る」

という制約条件を一つ入れるとがらりと変わる。(1’)はついてはこの制約条件は大した影響はない。冷蔵庫の中をチェックする際に必要な材料も併せて確認すればよい。ところが、(2)はそうはいかない。たまたまそのメニューの作り方を知っていればよいが、知らない場合には適当に選んで帰って、レシピを見てもう一度、買い物に行かなくてはならない可能性が大である。


◆経験がないと段取りが重要

時間がないときに、どちらを選ぶか?これだけでは決めにくい。もう一つ、経験がないという条件が重なるとどうか?

すると、調べなくてはならない可能性があるので、明らかに前者である。

つまり、何をすればよいかはっきりと分からず、かつ、時間的な余裕がない場合には、まず、段取りの時間をとって段取りをし、そして作業に着手するという方法が合理的なのだ。

◆落とし穴

では、ここで、もう一つ。(2)で買い物に行く途中で携帯電話でレシピを調べることができるとすればどうだろうか?それなら、(2)という人は少なくないのではなかろうか?やりながら考えるという流儀への支持は高い。実はこれが落とし穴だ。

行こうとしている店に求めている材料がすべてあるとは限らない。ひょっとすると、2軒、3軒と梯子しないとそろわないかもしれない。やはり、出発する前にどこに行けばすべてそろうかを考えた上でその店に買い物に行く方が早いのだ。

つまり、段取りを取る時間がないので、段取りを考えながら、実施するというのはこういう状況を生み出す可能性があるのだ。この点をよく認識しておく必要がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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