第169回(2007.11.27)
ダイナミックなプロセスを計画する

◆ある議論

前回、リーダーシップはダイナミックなプロセスであるべきだという話をした。ところが、組織が管理するマネジメントプロセスとして考えた場合、固定化したい。このような例は少なくない。

ここで問題になるのが「明確にする、あるいは「あいまいさを排除する」とは何を意味するかだ。あるコンサルティング案件で議論した話。相手は、PMOのマネジャーD氏。

D氏「PMBOK(R)ではコミュニケーション計画という考え方があるのだから、すべてのコミュニケーションを事前に規定しておくべきでしょう」

好川「確かにあいまいさは排除すべきですね。先ほども言いましたように、「必要に応じて」、「問題があれば」、「しかるべき人に」、「臨機応変に」というコミュニケーションの4大悪を排除するような標準を作りましょう」

D氏「ええ、今、リスクで行っているのと同じように、チェックリストにして、チェックできるようにするのがよいと思います」

好川「どんなチェックリストのイメージをお考えですか」

D氏「たとえば、「計画の際には着手前に上長に対する確認項目リスト」とかいったイメージですね。私がプロマネをやっていたときには実際にそんなチェックリストを作ってやっていましたので、あまり、漏れなかったですよ」

好川「なるほど、ある程度、ステークホルダも決めてしまうわけですね」

D氏「ええ、うちのプロジェクトだと、ステークホルダは役職とか、立場でいえばほとんど決まってきます。主要なステークホルダを絞り込んで、チェックリストを作っておけばいいんですよ。ほら、役員プレゼントとかのときに想定問答集って作るじゃないですか。あれと同じですよね」

好川「なるほど、トラブルのときはどうされていましたか?なかなか、想定するのが難しいのではないかと思うのですが」

D氏「トラブルの時に難しいのは、プロセスが明確になっていないからだと思います。
私はそこまでやっていませんでしたが、プロセスを明確にしておけば、そのプロセスの節目節目でコミュニケーションリストを作ることはそんなに難しいことではないと思っているのですが。危機時のコミュニケーションは特に大切なので、将来的にはそこまでやりたいなと思っています」

おそくら、多くの人が考えているコミュニケーション計画というのはこういう感じのものだと思う。考える余地を残さない。


◆固定化は何かを犠牲にする

このような考え方が間違っているとか、問題だといっているわけではない。リスクのないプロジェクト、あるいは、計画時にほとんどのリスクを回避するようなプロジェクトの進め方をする組織であれば、これでよいと思う。167回に述べたような定常業務をプロジェクトで管理しているのであれば、このようなやり方が可能である。

ただ、一般的なプロジェクトの定義からするとこのようなやり方は「何かを犠牲にしないとできない」。たとえば、それによって収益目標を数%失う、商品の販売数を数%失うといったことが起ってもおかしくない。機会損失なので、見えないだけだ。

計画の必要性を言いながらこのようなことを言うと矛盾したことを言っていると思っている人もいるだろう。そこで、最後にどうすべきかについてヒントを述べておきたい。


◆ダイナミックな計画とは、メタな計画である

前回から言っているリーダーシップに加えて、コミュニケーション、ネゴシエーションプロセスをダイナミックプロセスとして扱うことだ。コミュニケーションであれば
「必要に応じて」
「問題があれば」
「しかるべき人に」
「臨機応変に」

について具体的なガチガチのコミュニケーション計画をするのではなく、

「必要に応じて」 → コミュニケーションを起こす条件
「問題があれば」 → 問題の定義
「しかるべき人に」 → コミュニケーションパス設定のルール
「臨機応変に」 → コミュニケーションのガイド

といった「メタ」なルールの設定をコミュニケーション計画にすることだ。メタなルールやガイドラインを設定するだけであるので、当然、プロジェクトマネジャーやメンバーの判断の要素が入り、そこにダイナミックスが生じ、より高い目標へのアタックが可能になる。枠を規定して、判断要素を残す。これが権限委譲の本質だといえる。
このようなあいまいさは積極的に取り入れるべきだ。


◆蛇足

日本のマネジャーの多くは、勝てる試合で、負けないことを目標にしたがる。決して何点以上の差をつけて勝つことを目的にしない。これは時間とともに大きな差をもたらす。この典型的な例がトヨタと他の自動車メーカではないかと思う。人間も組織も勝とうとしないと成長しないものだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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