第168回(2007.11.20)
管理の限界

SIの企業でこの数年よく聞くようになってきた話が、プロジェクトの成功率(納期、収益の目標達成)は格段に向上してきた。しかし、依然として大きな赤字プロジェクトが消えない。

このような現象の原因は多様であるので、一律な議論はできないが、確実に言えることは難易度の高いプロジェクトはまだうまくできてことも少なくないということだろう。この問題は、2つの意味で本質的な話ではないかと思う。


◆管理の限界

ひとつは、プロジェクトマネジメントの導入によりプロジェクトの成功率が向上してきた背景は組織(経営)側のアドミニストレーション的な管理の向上がある。特別な仕組みを作ったということではなく、むしろ、プロジェクトマネジメントの導入によってプロジェクトの状況が可視化されたことによって、みんなが知恵を出し合ったり、経験を活かせるようになってきたのが大きいのではないかと思う。また、また、組織として管理機能の強化として、プロジェクトマネジメントオフィスを活用しての徹底的な可視化の指導や、分析を行っていることが功を奏している側面もある。

逆にいえば、「管理でできる範囲」は前回の話でいうところの定常業務に限定されるという一面もある。つまり、経験があったり、先の見える課題に対しては威力を発揮するが、未知の課題や不確実性の大きい課題に対しては管理は無力である。

この点に気がつかないと、今の管理はどこに問題があり、どうすればその問題が解決するかという目先の問題解決に走り、どんどん、管理を厳しくし、「マネジメント実行不全」に陥れる。いわゆる「管理のための管理」に走ってしまうのだ。


◆ダイナミックなプロセス
もう一つは難しいプロジェクト(目標レベルが未知領域に近いプロジェクト)においてはダイナミックなマネジメントプロセスが不可欠だということだ。管理の限界と似た部分もあるが、難しいプロセスを組織やPMOが管理的に動かすのは無理がある。
なぜなら、難しいプロジェクトでは仮説思考が前提になるからだ。

仮説設定と検証とフィードバックというサイクルを運用するためには、マネジメントがアジャイルであり、かつ、柔軟な発想が求められる。

大きな失敗をしている原因はそんなに大層なものではない。ちょっとした判断ミスや、意志決定のタイミングのずれといったことが引き起こしていることが多い。たとえば、コスト的な問題が出てきたときに、オフショアに走り、結果として大変な失敗をしている事例をよく耳にする。このような問題を分析してみると、実は、「オフショアを使えばコスト的に有利である」というのが「仮説」であるにも関わらず、正しいものとして検証もせずに進めていっているケースが多いことに驚きを感じる。さらに、その理由になっているのが、プロジェクトとしての検討よりも、組織(エグゼクティブ、スポンサー、PMOなど)からの指示であることが多いのはもっと驚きである。

つまり、仮説思考のプロセスが機能せず、プロセスが固定化してしまっているのだ。

このような問題を考えると管理にプラスアルファとしてリーダーシップが必要であるという結論にたどりつく。プロジェクトマネジャーがリーダーシップを発揮することによって、管理に過度に頼らないプロジェクトの運営をする。このことに尽きる。

リーダーシップにより、プロジェクトチーム、社内ステークホルダ、顧客などのへのさまざまな影響を与え、管理では達成できないレベルのチームパフォーマンスを実現するとともに、意志決定を柔軟に行っていく。管理がベースであることは間違いないが、管理のための管理に走らず、リーダーシップを組み合わせていくことによって、目標の高いプロジェクトを成功させていくことができるだろう。

(続く)

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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