第160回(2007.09.18)
プロジェクト区分に関するIさんからのコメント

◆Iさんからのコメント

前回の記事に対して、Iさんという方から、以下のようなコメントを戴いた。

好川個人に対する質問なので、ホームページには掲載していない。ここでは、ご本人にメルマガで紹介することの許可を戴いて掲載している。

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私は総合電機メーカで家電部門で、業務改善の従事しています。社内でプロジェクト業務に携わっているのは、SI部隊、ハード開発部隊、重電部隊、家電をやっている部隊、コンサルティング部隊とさまざまです。また、R&Dの部隊もプロジェクトで仕事をしているところもあります。

社としてプロジェクトマネジメントに力を入れ始めていますが、プロジェクトを一律に扱うのは無理があり、何らかの整理が必要だと考えます。「規模」に応じてプロジェクトマネジメントを柔軟に変えていくべきというときの、規模というのは何をさしているのでしょうか?また、小規模というのはどのくらいの規模なのでしょうか?

私たちのやっている家電の商品開発のプロジェクトでは、SIや情報機器のような何百人という要員を抱えるプロジェクトはありません。私が経験した最大のプロジェクトでも数十名です。逆に、売上げをみればSIはせいぜい、数十億ですが、商品開発のプロジェクトは百億を目標にするものも少なくありません。これはどのように整理できますか?
=====

という質問だ。この問題はプロジェクトマネジメントにとってかなり本質的な問題である。Iさんが書かれているようなスパンでみれば、規模だけですべてを片付けるわけには行かないだろう。PMstyleで発行しているPMO向けのメールマガジン「PMOマガジン」の連載「PMCoE戦略ノート」の第40回で、

第40回 大は小を兼ねない〜プロジェクトの区分

という記事を書いたことがあるが、この記事で書いたように、もう少し、広い視点でプロジェクトを整理していく必要があると思う。


◆規模とは?

ただ、その中でも、規模というのははやり、プロジェクトマネジメントのあり方を決めるためにもっとも重要なファクターであることは間違いないと思う。しかし、実際に何が規模かというと難しい問題である。一般的にいえば、

・プロジェクト予算
・プロジェクトに従事する要員数

のいずれか、あるいは組み合わせで規模を定義する。そこに、さらに、入れるのであれば、

・プロジェクト活動に参加するステークホルダの数

というのを入れてもよいと思う。これはどのようなプロジェクトでもあまり変わらないと思う。


◆商品開発とSIプロジェクトの規模を比較できるか?

ここでひっかかるのは、1億円のプロジェクトと、SIの1億円のプロジェクトを同じ感覚で見てよいかどうかという問題である。Iさんのメールにもそのような下りがあった(ご本人の意向により割愛)。著者は両方の経験があるが、明らかに違う。SIの1億円のプロジェクトの感覚は商品開発のせいぜい、半分くらいである。つまり、5千万円程度の感覚だ。

なぜ、こんな感覚になるのかというのを考えてみると、SIプロジェクトでは製造を含めているので、定型業務が意外と多い。単純に考えれば、商品開発の生産設計がプログラム設計であるので、SIプロジェクトのプログラム設計以降の工程は商品開発ではプロジェクトスコープ外になっている。この違いだろう。予算や工数に限らず、要員についても、SIプロジェクトは生産要員をプロジェクトに抱えているようなものだ。

詳細設計以降は調達をしているのでそんなことはないという意見をお持ちの方もいると思うが、どういう形で成果物を作ろうと、プロジェクトスコープの中に入っていることは間違いなく、これが生産(商品)をスコープ外に出している商品開発プロジェクトとの違いだ。


◆小規模の意味するところ

このことだけを考えても、規模を予算、要員などで捉えるとすれば、分野ごとにやらざるを得ないことがわかる。例えば、SI分野で規模に分けて、プロジェクトマネジメントの標準を定めていくのだ。

その上で、SIで言えば、小規模というのは1億円までのプロジェクトのイメージである。商品開発でいえば、3〜5千万までのイメージである。金額でいえばそんなイメージをしている。


◆小規模プロジェクトにこだわる理由

ついでに、小規模にこだわる理由を述べておく。プロジェクトマネジメントが最も面白いからだ。

大規模なプロジェクトはプロジェクトマネジメントなしにはできない。その意味で、プロジェクトマネジメントの重要性が最も高いのは大規模プロジェクトである。しかし、一定レベルのマネジメントの実施は大きな効果をもたらすが、その上で、プロジェクトマネジメントを工夫することによって大きく結果が変わることはあまりない。

ところが、小規模なプロジェクトはプロジェクトマネジメントの工夫によって大きく結果が変わる。仰々しくプロジェクトマネジメントをしなくてもなんとかなるし、逆に工夫のしようで収益を大きく上げることも可能だ。その意味で、プロジェクトマネジメントのダイナミズムが最も大きいのが小規模プロジェクトであるし、マネジャーに「知性」が求められるのも小規模プロジェクトであるし、プロジェクトマネジャーの能力に結果が最も影響されるのも小規模プロジェクトである。その意味で、プロジェクトマネジメントの本質を知るにはキャリア初期に任される小規模なプロジェクトのマネジメントを「真剣に考えて」取り組んでみるべきだ。

また、時代の流れとしても、プログラムマネジメントの普及で、個別のプロジェクトは小規模化する傾向があるし、これからどんどん加速していくだろう。その意味でも、
小規模なプロジェクトに対して、本質を突いた、創意工夫を盛り込んだマネジメントができないプロジェクトマネジャーはこれからは生きていくのが難しくなると思っている。

以上が小規模プロジェクトにこだわる理由だ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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