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第156回(2007.08.24)
人間にしかできないプロジェクトマネジメントをしよう |
◆ミニアンケート
このメルマガでも紹介したことがあると思うが、僕がプロジェクトマネジャーのあり方に関する講演のときに掴みに使っているミニアンケートがある。
【質問】事業部の存続をかけ、新分野の製品開発プロジェクトを実施します。あなたは事業部長です。プロジェクトマネジャーにどの人を選びますか
(1)PMBOK(R)も知らない、MS Projectも使えない、でも、PMキャリア15年のベテランプロジェクトマネジャー
(2)人心把握に長けたラインマネジャー
(3)製品開発プロジェクト経験10年、PM経験1年のPMP
(4)大学院で製品開発とプロジェクトマネジメントについて学んだが、実務経験のないMBA
というアンケートだ。
◆プロジェクトマネジメントを行う環境の変化
このメルマガを始めた5年くらい前には、結構(1)が多かった。続いて(2)、(3)という感じだった。しかし、今では、(1)と答える人はあまりいなくなっている。(2)か(3)である。なぜだろうか?
日本人はもともと、理論志向より、経験志向が高い。だから、とにかくプロジェクトマネジャーとしての経験が長いということが評価されていた。ところが、今はそうではなくなってきている。PMBOK(R)に代表される近代的なプロジェクトマネジメントの知識がなくては、プロジェクトマネジャーとして仕事にならないと考えるようになってきている。
最近、プロジェクトの失敗事例を聞いていると、ここに間違いがあるのではないかという気がしている。以前であれば、当たり前のことができなくなってきている。例えば、つい、最近もこんな事例に出会った。
顧客とのコミュニケーションがうまく行かなかった。それも、齟齬があったとかいう次元の話ではない。仕様に関して期日までに顧客の方からとくに要望がなかったというので、プロジェクト側で良かれと思う仕様を決めて、勝手に進めた。顧客の方も遅ればせながら要望を出したが、プロジェクト側は約束と違うと言い出した。
この約束とは実はコミュニケーション計画であり、双方の合意で要望を出す期日が決められていた。契約書にもプロジェクト仕様としてこの部分の計画は含まれていた。当然、顧客もそんなことはわかっているが、今までの慣習から、遅れて平気で要望を伝えてきたのに対して、プロジェクト側が噛み付いた格好だ。
当然、理屈はともかく、顧客側に分があるので、プロジェクトの上位組織や営業が動き、事態を納めようとしたが、なんとこのプロジェクトのプロマネはそれを良しとせずに、プロマネを降りると騒ぎ出した。ちょっとした縁があり、仲裁に入ったが、このプロマネは顧客がどう動くかということをまったく理解していなかった。
◆計画すれば動くという錯覚
これと同じパターンはよく見聞きする。要するに計画が承認されれば、自動的にみんながそれにしたがって動く(べき)と考えているプロジェクトマネジャーは結構多い。これは錯覚である。計画を作ってそのとおりにみんなが動くのであれば、プロマネなどいらない。PMOに「計画屋」を置いて初期計画だけをきちんと作れば事は足りる。だけど動かないのでいろいろ苦労するのだ。
計画が終わったらプロジェクトが終わった気になるというところまでではないとしても、それに近い感覚になっている。計画が終わったところからプロジェクトマネジャーの本当の仕事が始まるということが感覚的にわからないのだ。ゆえに、計画が実行されるように調整をしようなどとは微塵も思わない。
◆「人間にしかできないプロジェクトマネジメント」を目指そう
ある組織コンサルタントの人から、組織の中で始めて部下を持ったとき、あるいは初めて役職についたときに、自分が思うとおりに部下や組織が動くとかいう気になる人が多い。しかし、3ヶ月もやっていればそれが幻想だったことに気がつくという話を聞いたことがある。上のプロマネはこれと同じ幻想を持っているのだ。
ひと言でいえば経験不足なのだ。
そう考えると、組織にPMBOK(R)がある程度定着してきたからといって、(1)のタイプのプロマネをプロマネ旧人類(本当にこの言葉を使っている企業がある)だと揶揄して、遅れているというのは如何なものかと思う。むしろ、PMBOK(R)が定着してきたからこそ、プロジェクトマネジメントの本質が何かということを真剣に考え、「サルでもできるプロジェクトマネジメント」ではなく、「人間にしかできないプロジェクトマネジメント」を目指していくべきだろう。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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