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第145回(2007.05.29)
なぜ、プロジェクトトラブルは大きくなるのか? |
◆トラブルとは何か
まず、トラブルとは何かということを考えておこう。普段、何気なく使っている言葉だが、その意味はあやふやである。トラブルという言葉は言霊を持つので、それが話を一層、複雑にしている。
トラブルとは、ベースラインへの復旧(是正)が難しい状況を言う。
ここで、同時にベースライン(計画通り)というのがどういうことかを理解しておく必要がある。スケジュールにしろ、コストにしろ、最初に作った計画(ベースライン計画)に対して、まったくずれなく、計画が実施されるということはさまざまな理由により考えにくい。たとえば、1ヶ月の作業であれば1〜2日の誤差がでてくることは当たり前である。従って、ベースライン計画にはアロアンス(差異の許容できる範囲)がある。アロアンスを決めるのは上位組織(プロジェクトルール)か、あるいは、プロジェクトスポンサーである。
トラブルとは、アロアンスを含むベースラインへの是正ができないと判断される状況である。ただし、ここでポイントになるのは、その判断はプロジェクトマネジャーの判断であるとは限らない。むしろ、多くの場合、プロジェクトスポンサーの判断になる。あるいは、プロジェクトスポンサーが判断すべきである。
◆なぜ、トラブルは大きくなりがちなのか
次に、トラブルがなぜ、大きくなりがちなのかという問題について考えてみたい。
ひとつは「プロジェクトには問題がないことを前提にしている」ために対処が遅れるという理由がある。
これはリスクマネジメントの強化などにより、なくなってきたと思われているが、そんなに単純な問題ではない。プロジェクトが上位組織に報告するときには、トラブルがあることを認めたくないし、上位組織はプロジェクトには問題はないと考えたい。このように両者の利害関係の一致があり、リスク兆候などをあげていても、発見も対処も遅れる。これがひとつ。
もうひとつは、トラブルと認めたあとの対処方法にある。トラブルに対して、対処療法的な対応をすることが多い。例えば、スケジュールが遅れていると、あまり、考えないで要員を投入する。予算が危ないと、人件費の安い企業や海外企業を使う。まさに臭いものにふたをするような対応をする。
人を投入すると、その人たちへの対応に却って手間がかかったり、あるいは、チームワークが乱れ、結果としてよりスケジュールが遅れてしまう。あるいは、それにより、今度は予算に問題が起るといった別の問題が発生したりする。人件費の安い要員を使うと、品質の問題が起ることが多い。
◆どうすればよいか
前者の問題に対して、トラブルであることの判定基準を定量的に決めておく。例えば、最終的な予算アロアンスが10%だったとすると、8%を超えると危険領域に入ったという判断をする。
ただし、自動的にトラブルだとはみなさない。危険領域に入ったところで、状態のアセスメントを行い、トラブルだと判断するかどうかを決める。つまり、ベースラインに復旧する可能性があるかどうかを判断する。
さらに、トラブルだという判断をしたとしても、特別な対応をするかどうかには、もうワンクッションを入れる。組織全体としてリソースの制限もあるし、全体的にみてどうすればよいかを決める。
このような対応が必要である。
後者の問題については、まず、プロジェクトを安定化させることを考える。例えば、スケジュールがじりじりと遅れてきたとしよう。ここで人を入れればなんとかなるようにも思えるが、例えば、それぞれのメンバーの仕事が少しずつ遅れているとすれば、人を入れることは逆効果であることが多い。とりあえず、遅れの増大を止めることが先決である。
例えば、1ヶ月ほどの間、毎週の進捗報告のたびに、1日ずつくらい、遅れが膨らんでいるSIプロジェクトがあった。このプロジェクトのプロジェクトマネジャーは、1週間、土日の出勤と平日の残業を禁止した。当然、遅れは大きくなった。しかし、次の週から、遅れの増加がなくなった。そのタイミングをみて、要員の投入を行った。1週間の間のロスは見事に回復し、また、その後、その前までの遅れもかなり、回復でき、何とか、顧客の許容スケジュール遅延で納品できた。
このように一旦、安定化させ、そのあとで、復旧する。これがトラブルリカバリーの極意である。急がば回れである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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