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第143回(2007.05.15)
なぜ、プロジェクトマネジメント標準は実行されないのか |
◆PMOスタッフの悩み
今年度からPMO系のセミナーで
「事例に学ぶプロジェクトマネジメントオフィスの立上げと運用」
というセミナーを始めた。このセミナーの中で議論をしているときに、参加された方が口々に言われていたのが、標準やツールを開発したあとのプロジェクトマネジャーに使ってもらうことの難しさ。「負荷がかかる」、「たいへんだ」、などなど。中には「なぜ、使わなくてはならないのか」といった意見に遭遇することもあるようだ。
これに対して、PMO側も、何とか使ってもらうために、いろいろと工夫をしている。
著者がしている限りでも、プロジェクトに出向いていって適用を手伝うといった懐柔策(主にIT企業)から、計画書にゲートを設定してきちんと計画書を作らないプロジェクトマネジャーは交代させるといった強行策(某メーカ)まで、いろいろな策を打っている。また、文化構築のような組織的な取り組みをしている企業もある(某メーカ)。対策はそれぞれのビジネスの事情から来ているので、どれがいいとかいう話ではないが、有効性という点においては、同じ施策をとってもうまく行っている組織といっていない組織がある。
この議論は昔からある議論だと思うが、話の本質は3つしかないのではないかと思う。
◆経営を知らないプロジェクトマネジャー
一つ目は、プロジェクトマネジャーの問題。
プロジェクトマネジャーが企業経営の仕組みをきちんと理解できていないことである。チームメンバーのフォローに忙しいとか、顧客の対応に忙しいとかいったことに隠れてしまっているが、標準やツールに従う必要がないと考える理由は統治の仕組みの理解不足によると思われる。例えば、大手SI企業の課長クラスというと立派なマネジャーである。ところが、会社が儲かる仕組みを細かく説明できない人とが少なくない。もちろん、大枠の話は分かっているか、ドライビングフォースを理解できていない。例えば、自社のコストドライバーが何かよく分からない。戦略のドライビングフォースが何か、よく分からない。
これでは、アカウンタビリティを問題にする組織の意図を「監視」とくらいしか考えないだろうし、そのための標準化、ドキュメント化、可視化の本当の目的を理解するのは難しい。しないよりはした方がよいくらいにしか思わないのであれば、確かに、そんなことをしている暇があったら、メンバーやお客様と話をしていた方が「プロジェクトの成功」に役立つと考えても当然である。
◆マーケティングしないPMO
二つ目はPMOの問題。標準しろ、ツールにしろ、よいものを作れば使ってももらえると考えている人が多い。が、これだけでは不十分である。作ったデリバブルスを使ってくれる人(ユーザ)に届けなくてはならない。ただし、PMOを作ってずっと沈黙していて、ある日、突然、「計画ツールを開発しましたので、ご活用下さい」といわれても、ユーザは他人事にしか思わないだろう。常に、PMOの活動に関心を抱かせ、PMOの活用に対する意見を求め、あるところで、ツールなどを提供する。そして、アフターフォローで、しっかりと使い方を説明したり、あるいは使い勝手を聞いたりする。
つまり、マーケティングコミュニケーションを計画的にしっかりとしていく。今の多くの企業のPMOに決定的にかけているものは、社内マーケティングである。その証拠に、国内の一流企業のPMOを見回してもマーケティングスキルのある人がいるところはほとんどないし、マーケティングの担当者を置いている組織もほとんどない。
◆上下関係を考えたがる文化
三つ目は心理的な要因である。組織の中で、PMOとプロジェクトマネジャーというのは対等な関係である。というより、本来、役割が違う。プロジェクトマネジャーは事業成果をあげることが目的であり、PMOはプロジェクトマネジメントをうまくできるようにすることが目的である。ところが、なぜか、やらせる/やらされるという関係を作ろうとする。このため、標準やツールを使うことに対する心理的な抵抗が生まれてしまっているケースが少なくない。
◆ガバナンスからの問題解決
この3つの問題は絡み合っている。下手をすると水掛け論になって、どこから解決に着手すればよいか分からない。だから、
できることからやろう(懐柔策、あるいは強行策)
根本的に変えよう(文化論)
といった話になるのだが、糸口はそんなに難しくない。プロジェクトガバナンスを明確にしていくことである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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