第141回(2007.04.24) 
プロジェクトにおけるダイバーシティマネジメント

◆イノベーションか、改善か
イノベーションブームである。イノベーションの事例を読むと必ずといってよいくらい、異質な考え方をする人材のコラボレーションが出てくる。人材イメージで金平糖というのがある。エッジを立てている人だ。このような人はリーダーにはなりにくいが、イノベーションを起こすには欠くことができない。

日本人はイノベーションより改善の方がうまいとよく言われる。これは決して悪いことではない。最近、注目されているクリエイティブ・クラスという概念があるが、改善にもやはり、クリエイティブクラスの人材がいなくてはうまく行かない。要はスタイルの違いだと考えてよい。

だた、気になるのはどうして改善の方が向いているのかという点である。改善というのは連続的な変化であり、イノベーションは不連続な変化であることが多い。

このような特性が生まれている差は組織やプロジェクトの人材の多様性ではないかと思う。上に述べたように、異質な人材が集まり、多様性のある組織ではそのような人材の言動が引き金になり、不連続な変化を引き起こしやすい。これに対して同質な組織は徐々に進めていくことが得意で、一度、加速すればなかなか止まらない。日本の組織は後者が多いように思う。

※クリエイティブ・クラスについては、本号の「PMコンピテンシーを高める一冊の本」で紹介している本が分かりやすいです。


◆多様性への4つの反応

ところが、最近、ダイバーシティマネジメント、つまり、異質な人材の受容と活用に急速に関心が高まってきている。ダイバーシティーマネジメントのコンサルタントなどは体がいくつあっても足らないくらい仕事が忙しいという。イノベーションブームとの兼ね合いもあるとは思うが、企業を経営していく上で何か変化が起こってきているのだと思う。

多様性といってもいろいろある。性別、人種、宗教などがある。年功序列を推し進めてきた日本では、同じ会社の社員でも世代間の多様性というのもあるように見受けられる。

これらの多様性を乗り越えて、組織としての成果をあげていくのがダイバーシティマネジメントである。ダイバーシティマネジメントの一人者である早稲田大学の谷口真美先生によると多様性に対する組織の反応には、4つのパラダイムがあるという。

「抵抗」「同化」「分離」「統合」の4つである。


◆多様性への「抵抗」と「同化」

「抵抗」というのは、多様性に対して、何のアクションも起こさず、多様性を回避、拒否するという反応である。例えば、海外人材を受け入れないプロジェクト、女性を受け入れないプロジェクトなどはこの例である。

二番目は「同化」である。これはシステムはそのまま残して、個々の持つ違いを、今あるシステムの中に取り込んでいこうとする反応である。平たく言えば、「仕方がないから多様性を取り入れよう」という反応で、本質的には違いを認めていない。例えば、雇用機会均等法ができてずいぶんになるが、いまだに、女性の採用をこういう発想で行っている企業は少なくない。


◆ダイバーシティマネジメントのレベル

この2つはダイバーシティマネジメントがされている状況ではない。ダイバーシティマネジメントが行われているといえるのは「分離」からだ。分離は違いを認め、適応していこうとする反応だ。例えば、オフショア開発で、現地リーダーを置こうとするのは「分離」という反応である。これはマネジメントをしているといえる。日本企業のダイバーシティマネジメントはこのレベルのところが多いようだ。

最後の「統合」という反応は、違いを認めるだけではなく、戦略的に活かそうという反応である。これが冒頭に述べたイノベーションを起こすために、異質な人材を入れていくといったマネジメントである。これは相当高度な戦略的人材マネジメントだといえよう。

ダイバーシティの説明が長くなったので、今回はこれで終わるが、プロジェクトマネジメントというのは基本的に「分離」のパラダイムを前提に組み立てられている。従ってダイバーシティマネジメントをしない限り、プロジェクトマネジメントはうまく行かない。

プロジェクトマネジメントを導入してもうまく行かないという企業の何割かは、ダイバーシティマネジメントの問題があるように思える。次回はこのあたりをもう少し、考えてみたい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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