第134回(2007.02.20) 
どこまでやるか

◆これ、全部、やるんですか?

コンサルティング活動や、セミナーなどで、PMBOK(R)プロジェクトマネジメントの概要を話をすると、真っ先に返ってくる反応で一番多いのが

 「これ、全部やるんですか。自分たちの必要な部分だけをやればいいんですよね」

である。

 「そうですよ、PMBOK(R)というのはそういうフレームワークですから。整合性は必要ですが、基本的には取捨選択をしますし、既に自社でやっていることは無理に置き換える必要はありません。最低限必要なものを選び、そこから、徐々に充実していってマネジメントを強化していくのがスムーズです」

というとほっとした様子になる。

セミナーであればここで役割は終わりなのでいいのだが、コンサルティングの場合にはこの後、じゃあ、必要なものって何かを議論しなくてはならない。これが意外と難しい。


◆必要かどうかの2つの視点

必要かどうかの議論をする場合に、2つの視点がある。

ひとつは機能的な視点である。PMBOK(R)には統合、スコープ、時間、コスト、品質、人的資源、調達、リスク、コミュニケーション9つの知識エリアがある。さすがにどこかの知識エリアは考えないという組織は特殊な組織だと思うが、コンピテンシーやプロセスの単位でみれば、必要のないものはずいぶんある組織が多い。

もうひとつはより、本質的な話で、マネジメントの目的から考えて必要かどうかという議論がある。どこまでやるかというのはむしろこちらの議論が重要である。


◆プロジェクトマネジメントの目的

プロジェクトマネジメントの標準化、あるいは、標準手法の導入の最大の目的は、組織としてプロジェクトの成否に対する予測が効くようにすることである。実際に、成功率が上がるかどうかは別の議論であるし、また、標準化は成功率を上げる第一ステップであり、プロジェクトマネジメントの改善を行うための準備であるので、成功率の向上は標準化の次のステップの話であるということもできる。

第2の目的は、プロジェクトに対するモニタリングと統制である。標準を導入することによって成功率が上がるかどうかは別にして、適切なモニタリングを行い、プロジェクトが計画通りに進まない場合に組織として適切な対応をとることが可能になる。


◆統制という目的

同時に組織のマネジメントのために必要な統制を行うことができる。特に、この中ではコンプライアンスの視点からの統制が重要である。基本的に組織はプロジェクトに対して制約条件の元で権限委譲を行うので、プロジェクトの進行に対する統制を行うことはない。唯一の例外がコンプライアンスに関わることである。実際に調達などでは結果としてそのようなことが起ることがある。例えば、随意契約で要員調達を行い、結果として調達要員の能力不足で失敗すればこれはコンプライアンス上、大きな問題があるといわざるを得ない。このような状況は組織として食い止めていく必要がある。プロジェクトマネジメントの標準を構築することによってこのようなコンプライアンス上の問題を防ぐ手立てを打っていく必要がある。これもプロジェクトマネジメントの重要な目的である。


◆どこまでやるのか?

これ以外にもプロジェクトマネジメントの目的はいろいろと考えれられるが、「どこまでやるか」というのは目的によって決まる。

成功を予測するという目的からは、QCDSの計画とマネジメント計画、および、リスク計画は不可欠であるし、また、かなり、精度の高いものが必要になるだろう。

モニタリングとしては、例えば、リアルタイム(随時)のモニタリングをするためには精度の高い計画が必要であるが、月1回のモニタリングで済むなら、かなり、大雑把な計画でよいことになる。

さらに統制の視点からは、アカウンタビリティの向上が求められる。このためには、PMBOK(R)のほぼすべての領域をもれなく実行する必要がある。今後、組織に対して、ガバナンスの強化が求められるようになってくる。すると、だんだん、プロジェクトのアカウンタビリティに対する要求は強くなる。

次回は、具体的にアカウンタビリティを高めるには、各領域でどのような取り組みをしていけばよいかを考えてみる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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