第129回(2007.01.09) 
たくさんのこたえ

◆衝撃のCM

お正月にテレビを見ていて、結構、衝撃を受けたCMがある。中央出版という出版社の「たくさんの答え」という企業イメージCMだ。

ご覧になった方も多いと思うが、簡単に紹介しておく。日本とイギリスでは算数の問題の考え方が違う。

日本の小学校の算数の問題(文中では日本方式)
 1+2=□
 3+3=□
 6+4=□

イギリスの小学校の算数の問題(文中ではイギリス方式)
 □+□=5
 □+□=7
 □+□=9

だというのだ。そして、最後に「子供の数だけ答えがある。中央出版」というメッセージが流れる。

早速、米国や、フランス、ドイツなどで子供を小学校に行かせた経験のある知人に聞いてみたら、どうも規格はずれなのは、日本のようだ。ちなみに、日本でも塾では結構この種のトレーニングをしているらしい。

仕方のないことだが、日本では、大人になってもこの刷り込みが抜けないようだ。


◆1+□=□に対応できるか?

これを痛感するのが(プロジェクト)マネジメントである。マネジメントは本来イギリス方式の問題解決であり、自由度のあるところに、競争が生じ、勝敗が生まれる。従って、戦略も必要だし、マーケティングも、ITも、マネジャー育成も必要になる。

ところが、日本ではマネジメントを日本式の問題解決だと考えている(もっといえば、規制によって必要なマネジメントをそのようなものにしてきたといえなくもない)。これだと、ひたすら、計算能力だけを磨き上げていけば、競争に勝てる。つまり、職人の育成が必要になってくる。すると、

 1+□=□

といった状況になると、金縛り状態になって、お手上げということになる。

もっとも、どちらが優れているかという話になってくると、一概に言えない。


◆しかし、工夫をする日本人

上のような書き方をするとイギリス方式がよいと言っているように聞こえるかもしれながいが、そう単純な話ではない。日本の戦後の驚異的な経済成長を支える日本の現場を作ってきたのは日本方式である。しかも、単に、計算を早くするようにしているだけではない。トヨタを始めとして、考える現場を標榜している企業では、

 12×25=(□×□)÷□=□

といった工夫に知恵を絞っているのだ。あるいは、本当に優れた企業は

 12×25=□□□□□□=□

といったことを考えている企業もある。こうなると、□+□=12とどちらが自由度が高いかも分からない。そういう意味で創造性を重視している。

つまりは、誰がやっても同じように、計算を確実に行い、早くできるようにする方法を考えるのだ。このスコープでは、非常に創造性を重視する。これは、極めて合理的なことである。


◆パラダイムの違いは致命的

しかし、マネジメントにおいては、これが致命傷となっていると思える。それは能力ではなく、「ものの見方(パラダイム)」の問題である。実は、

 6+4=□

をできる人が、

 □+□=10

ができるようになるには、パラダイムを変える必要がある。これがそう簡単にできない。ここを解消しない限り、日本人から優れたマネジャーがたくさん生まれることはないだろう。よいマネジャーは特別な資質をもった人に限られる。日産に代表されるように、欧米のマネジャーには適わないだろう。

会社法などによるガバナンスの強化で、これまでは一握りのエクセレントなマネジャーで運営してきた日本企業も、いよいよ、多くのそれなりの質のマネジャーが必要になってくる。数が確保できないと、企業としてのパフォーマンスは間違いなく落ちる。この行き先にこの問題が暗雲のごとくある。

その原点が小学校にあるのだとすれば、これは先は長いなと思った次第だ。塾に期待するしかないのか、、、

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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