第126回(2006.12.12) 
見積もりと計画

◆見積と計画は違うか?

先日、ある会社の事業部長の方と話をしていたら、意図的に見積精度と計画精度という言葉を使い分けられていた。わが意を得たりで、いろいろと話をして、有意義なご意見を伺うことができた。

見積精度と計画精度というのは混同されて使われることが多いし、また、似ているのだが、似て非なるものである。見積と計画は「根拠」と「目標」の関係にある。見積は、主に、工数やスコープなどについて行われる論理的な根拠に基づく推定である。計画は、その見積に基づいて行われる目標であり、計画を策定する作業とは意思決定そのものである。

IT系の企業では開発管理からプロジェクトマネジメントにマネジメント視点が移行してくる中で、マネジメント計画(スコープ、リスク、コミュニケーションなど)については今までにない要素だとして新規に導入されてきたが、活動計画(スケジュール、予算など)については

 計画=見積

として扱われてきた。そして、プロジェクトマネジメントが定着するととにも、その効果を損なう要因として見積精度が盛んに言われるようになってきた。しかし、IT企業の場合、見積は永遠の技術テーマである一方、間違いなくあるレベルに達していることも事実である。精度は上がる。しかし、その見積精度の向上が他の要因と比較した場合により重要であるという状況にはない。


◆なぜ、見積と計画を区別するのか

例えば、ソフトウエアエンジニアリングの見積の中で散々議論されているが、まったく答えのでない問題が個人の生産性のばらつきである。PMBOK(R)の中にリソース能力という概念があるように、統計的な意味での個人の生産性はある程度扱えるようになってきている。個人の問題を扱う場合の「前提条件」は「人は常にその人の持っている能力をすべて発揮する」という前提で、これはまず、成り立たない。

そう考えると、個人の能力差と同じように、個人の調子を扱わなくてはならない。しかし、これは見積の要因に含めることは不適切である。むしろ、考えるべきことは以下に、平均的に能力を発揮させるかである。これがマネジメントであるといってもよい。

計画とは、個人の生産性の不安定さを含めて、目標を提示するものである。従って、見積が100時間だとした場合に、計画は90時間というのはありうる話なのだ。

ただし、目標だからといって、納期から帳尻あわせで設定してよいということではない。見積は根拠であり、常識的に考えて、そこからストレッチさせる幅というのは決まってくるだろう。もちろん、このストレッチの幅はマネジメントの巧拙によって変わってくる。

以上のように考えた場合、見積誤差というはエンジニアリングでいう誤差の概念に近い。しかし、計画誤差というのはマネジメントの失敗である。その意味で見積精度は重要ではあるが、本質的に見積精度をカバーするのがマネジメントであるといえる。


◆見積はエンジニアリングの問題、計画はマネジメントの問題

逆に言えば、マネジメントという立場から考えてみた場合、見積精度を上げることも結構であるが、そこに労力を割くのであれば、計画精度の向上、つまり、マネジメントの成熟度の向上に労力を割くべきだろう。

極論すれば、プロジェクトマネジャーが明らかな見積ミスをしても、そのプロジェクトマネジャーに人望があり、そのミスをカバーしようとメンバーが躍起になれば計画精度は上がるのだ。この点をよく考えてみてほしい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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