第33回(2007.03.19)
プロジェクトマネジャーを育てる(1)
 

◆はじめに

前回はとっかかりとして、プロジェクトマネジャーの育成にはプロジェクトスポンサーのコミットメントが不可欠であり、プロジェクトマネジメントの制度の中にそれを明確な形で入れるべきだという話をした。

第33回 プロジェクトマネジャーを育てる(1)



◆人材に関するラインとプロジェクトの役割分担

今回は、少し、違う視点からこの問題を考えてみる。マトリクス組織によるプロジェクトの運用のステレオタイプに

 縦串(ライン):人材育成、キャリアマネジメント
 横串(プロジェクト):人材活用

というのがある。つまり、ラインが日常業務を通じて人材を育成し、特別な業務であるプロジェクトに供給するというモデルである。ところが最近はこの図式が非常に書きにくくなっている。


◆ある編集長の話

話は変わる。先日、ある出版社の出版マネジャーの方と会食をしたときに

書籍が売れなくなってきているのでとにかく点数を出して売り上げを稼ぐしかない。そのためには従来以上の数の編集者が必要なのだが、儲かっていないので人は増やせない。結局、一人が月1冊とか、10年前だと信じられないようなペースで編集を担当している。一方で、どこの出版社も利益の源泉になっているのは、「一本被り」になっているベストセラーだ。ベストセラーを作るにはコンテンツだけではだめで、コンテクスト(事業的な仕掛けといったような意味)が必要。これは決してビギナーズラックのような偶発的なものではできない。このように整理すると、利益を上げるには人材育成が必要なのだが、月1冊、カストリ本を作らせていたのではとっても育成はできない。何か、よい知恵はないだろうか?

という相談を受けた(カストリ本というのはこの編集長の表現をそのまま引用しています。書籍を上梓されている読者の方がいらっしゃれば申し訳ありません。決して他意はありません)。


◆多様化と一本被りが求めるもの

この問題は出版業界だけの問題かというと決してそんなことはない。業界によって背景は異なるが、この多様化と一本被りという現象が起っている業界は多い。たとえば、ドラッグストアにいくと昔よりはるかに多くの薬が並んでいる。日雑ではライフサイクルが短くなって、ラインなっぷが増えていっている。家電ではニーズが多様化し、ラインナップが増えている。商品数が増えれば、多くの開発リーダーの数が必要になる。

消費財がどのような動向になれば、設備投資は小口化し、回数を重ねる傾向が出てくる。その傾向が顕著なのが、IT投資だ。投資は小口化し、分散化している。このため、SI企業では、以前と較べて多数のプロジェクトマネジャーが必要になっている。収益的にはこのような小さなプロジェクトを如何に効率よく行い、利益を積み上げていく必要がある半面で、数十億の規模のプロジェクトを確実に実施しなくてはトータルの利益が出ない現実もある。

これは、出版業界の構造とまったく同じだ。


◆あるSI企業の話

さて話が大きく脱線してしまったが、このような経営環境の中では、ラインが人を育て、プロジェクトが使うという構図は、プロジェクトマネジャー、エンジニアとも難しくなってきている。以前、ある中堅SI企業は、3年間プロジェクトでプロジェクトマネジメントをすると、2年間、ラインでプログラムマネジメントをするような仕組みを作っていたが、プロジェクトマネジャー数の不足でこの仕組みが崩壊してしまった。結果として、組織としてはプログラムマネジメントの部分に十分な人材を当てることができず、また、プロジェクトの成功率も下がった。

ある意味で、請負企業の悲哀のような話であるが、この中で、如何に人を育てるかというのは比較的一般的な課題だといえる。脱線が長くなってしまったので、今回はこ れで終わりにし、続きは次回にしたい。



◆プロジェクト憲章にスポンサーの指導義務を明記する

プロジェクト憲章を作っている企業では、プロジェクトメンバーの育成について記述する組織が少なくない。ところが、プロジェクトマネジャーの育成について記述する組織は決して多くないのが現状である。PMBOKのようにプロジェクト憲章が(シニア)プロジェクトスポンサーがプロジェクトマネジャーの任命を行うための書類だと位置づけるなら、この中に、プロジェクトスポンサーがプロジェクトマネジャーの育成にどのようにコミットするかが書かれていないのは不思議であるといわざるを得ない。同時に、プロジェクトマネジャーの育成目標も明記されるべきだろう。

PMOとしてはまず、この点を明確にしていきたい。ただし、注意を要することがある。ガバナンスの明確化を先に行うことである。このような育成スキーム作りを今のようなガバナンスがあいまいな状況で行うと、「指導と称した命令」が横行することは疑う余地もないからだ。
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