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第7回(2004.10.07)
常に顧客の真のニーズと利益を考え、実現する |
◆顧客満足も品質
世の中が顧客行動に最大限の注意を向けるようになったのはすばらしいことだと思う。とくに、ITを背景にした顧客関係管理を行い、顧客を大切にしようというこの数年の動きは10年前と比べると驚くばかりである。
プロジェクトマネジメントにおいても、ISOの流れを汲んで、品質マネジメントの対象が、プロダクトの品質だけではなく、プロセスの品質まで拡張されるようになってきている。さらには、顧客満足度まで品質の範囲に含まれるようになってきてい
る。
このような動きは、プロジェクトマネジメントにとってかなり本質的な動きであるといえる。プロジェクトマネジメントの目的は、プロダクトの品質を保証することであるが、その手段としてプロセスの品質を向上させることを基本にしているからだ。プロセス品質の向上の中でも、とりわけ、顧客満足を向上させることの重要性は日に日に高くなってきている。
◆顧客満足とは何か?
では、顧客満足とは何だろうか?これは意外と難しい問題である。顧客が満足すれば顧客満足かというえば決してそうとは言い切れない。
ちょっと話が逸れるが、プロジェクトとして行なわれる業務は、専門性に立脚する業務であることが多い。たとえば、プラントを建設するのもそうだし、ビルを建築するのもそうだし、情報システムを構築するのもそうだ。
これらの業務においては、従来はプロジェクトのスポンサー(顧客)もはやり、あるレベルの専門家であることが多かったが、最近、この原則が崩れてきている。その典型は情報システムである。従来、情報システムのプロジェクトでは顧客企業でも情報システム部門を中心とした専門家を有し、彼らを中心にしてベンダーに専門レベルでの対応をしてきた。ところが、最近は、さまざまな経営環境の変化、および、ERPに代表されるような情報技術のパッケージ化が進み、この原則がなくなってきている。この点を頭の片隅においてほしい。
このような中で、従来は顧客側の専門家を満足させることが顧客満足に直結していた。逆に言えば、顧客がある程度、専門的に評価しない限り、顧客満足というのは実現しにくかったともいえる。もちろん、ベンダー側の専門性と、顧客側の専門性には専門性としてはレベルの差はあるが、顧客側はプロジェクトの成果を活用する際の知見により専門性の不足をカバーして、全体としてよいバランスが保たれてきたのだ。
ところが、上に述べたとおり、顧客の専門性が薄くなってきた。そこに、サービス業に端を発した顧客満足という考え方が急に進んできた。ここで、何が起こっているか。
「顧客絶対」といった言葉に代表されるように、過度に顧客適合をしようとする企業の登場である。これは顧客の利益になるのか?
ITの現場では、ずっと、ベンダー主導の問題が訴えられてきた。ところが、最近の風潮で、上に述べたような「顧客絶対」を実現するようなベンダーが出てきた。そして、結果として失敗している。顧客の要求する(いう)とおりにシステムを作り、作り終えてみれば、合理性が低く、利用者の利便性も低いシステムになってしまっている。
◆顧客の真のニーズとは
これを顧客の責任だというのは早計である。多くの場合は、ベンダーが顧客の真のニーズを把握できていないがために、このようなトラブルが生じている。最近、こういう事例に出会った。ある企業(顧客)が需要予測のシステムを作るということで、RFPを出した。RFPに書かれている機能をみれば、おおよそ、現在の技術水準で考えられる需要予測としては最大限の機能だ。あるシンクタンク系のSI企業が落札し、自社の持っているシミュレーション技術などをフルに活用し、対応したが、結局、顧客の求めるものはできなかった。
ところが、この顧客企業がその需要予測でやりたかったことはサプライチェーンの最適化であり、顧客の要求する水準の精度の需要予測がなくてもサプライチェーンマネジメントのシステムを工夫すれば十分なものだった。つまり、このSI企業は顧客の需要予測に対する真のニーズを把握できていなかったのだ。
◆顧客の立場に立つ
では、なぜ、顧客の真のニーズが把握できないのか?これは簡単である。顧客の立場に立ってものごとを考えないからだ。
「いや、そんなことはない。うちの会社では、顧客の立場にたって考えろと口がすっぱくなるほど言っている」というマネージャーの方も少なくないだろう。そのような人は、部下に聞いてみてほしい。何を以って顧客の立場に立っているといっているのか?
多くの場合は、上のパターンである。顧客がやりたいということを最大限に尊重して顧客の立場に立っていると主張している。お客様は神様かもしれないが、神様でも間違えることがあるのだ。
顧客の立場に立つというのは文字通り、「顧客の立場」に立つことだ。つまり、自分が顧客の担当者であれば、自分に何を要求するかということを考えてみればよい。
もうひとつ、重要なことがある。そこで仮に顧客の真意が分かったとしよう。しかし、それを必ず自分たちが受け入れられるという保証はないだろう。当然のことながら、ビジネスであり、利害関係があるからだ。そこで、もう一度、顧客の立場に立ってみることが必要なのだ。つまり、顧客の立場に立って、BATNA(Best
Alternative To a Negotiated Agreement)を探す必要がある。顧客であれば、どのような代替案を望むかということを考える習慣もつけておく必要がある。
※ BATNAについてはここを参照のこと。
◆この行動特性のためのコンピテンシー
プロジェクトマネージャーとして以上のような顧客対応行動を実現しようと思えば、2つのコンピテンシーが重要になってくる。
・顧客指向性
顧客を大切にし,顧客の関心に最大の注意を払うことができる
・顧客説得性
顧客にとっての真の利益を察知し,顧客の要望とのギャップを埋める行動をとることができる
の2つである。
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◆お奨め図書
好川哲人:プロジェクトマネージャーが成功する法則―プロジェクトを牽引できるリーダーの心得とスキル |
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