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第83回(2005.09.05) 
無理にスコープを決めていないか

◆プロジェクトマネジメントの役割

プロジェクトマネジメントには、2つの役割がある。一つはいうまでもなく、プロジェクトをうまく進めることである。プロジェクトへの権限委譲が大きくなればなるほど、この役割が大きくなる。もうひとつは、事業組織とのインタフェースである。これも当然だがプロジェクトがいつ終わり、どのような成果を上げることができるかは、経営上の最大の関心事であるが、このために経営に対して適切な情報を提供し、なおかつ、必要に応じて介入を受けることがプロジェクトマネージャーのもう一つの役割である。もちろん、これにはプロジェクトをうまく進めるためという副次的な要素もある。権限委譲が小さいとこの役割が大きくなる。

◆スコープ明確化へのニーズ

では、それぞれの役割に対して、スコープを明確にすることにどのようなニーズがあるのかを考えてみよう。

前者の役割に対しては、メンバーが自分の役割と分担を明確に認識し、他のメンバーと協調して仕事を進めていくためには、スコープが明確になっている方が望ましいというニーズがある。

後者に対しては、経営が情報をきちんと把握するためには、スコープに対する計画があり、その計画に対して報告がなされることが望ましい。当然、スコープが詳細が詳細であればあるほど、報告も詳細になり、多くの管理者はこれを望む。

◆プロジェクトではなぜ、スコープの明確化をあせるのか

最初の点についてもう少し、考えてみたい。このようなニーズには明確な前提がある。
それは、分業である。最初から必要なスキルを明確にし、そのようなスキルを持つメンバーを集めて、分業体制で進めていく。

しかし、このような考え方にはある意味でプロジェクトとして取り組むことと矛盾がある。スコープが定義できないような不確実性があるからプロジェクトとして実施していきたいのだ。すべてのプロジェクトがこのような性格を持っているとは思わないが、逆にIT系などを見ていると、このような性格のプロジェクトを無理やりに不確実性のないプロジェクトとして定義しようとし、その結果、無理をした部分で失敗しているようなケースが多い。

このような行動にはたぶんに心理的な要素が含まれている。一つは、プロジェクト(マネジメント)の担当者としての心理で、できる限り、不確実性をなくしたいと考えている。このこと自体は悪いことではないが、気をつけなくてはならないのは、その想いが強すぎ、本来「仮説」として設定したことをいつのまにか「事実」、あるいは、「既成事実」化してしまうことだ。これがスコープを無理やり決めることにつながっている。

当然、スコープはステークホルダの最も関心の高いところであり、そのような無理は通らない。結果、手戻りになる。


◆あいまいさに対するスタンスが重要

このような事態を防ぐためには、教科書的に言えば、

フェーズマネジメントをしっかりと行い、あいまいさをうまくコントロールしていくことが必要である。また、各フェーズでスコープ変更計画をしっかりと策定し、混乱のないようにスコープ変更をしていくことが肝要である

となる。しかし、もっと重要なことがある。それは、スタンスの問題である。無理に決めないというスタンスで動くことだ。つまり、プロジェクトとはあいまい性の塊であることをよく理解し、あいまい性と付き合うという心構えが欲しい。

これをマネジメントとしてある程度定式化しようとすれば、アジャイルのように、

 価値:プロジェクトとしての重視するもの
 原則:思考規範と行動規範

を明確にし、それを重視しながら、プロジェクトマネジメントの手法を適用していくことが求められる。

◆経営はなぜ、スコープ確定をあせるのか

もう一つの要素が、2番目の役割と関連する。つまり、経営側としては、できるだけ、早く、経営上の判断をしたい。例えば、スケジュールが遅れれば、売り上げ計上が遅れる可能性があり、そうなると計画業績に影響が出る。そのあたりの判断をするために、当然、早期のスコープ確定を要求する。

するとプロジェクトマネージャーとしても、無理にでもスコープを確定しようとする。
当然、リスクがあることを訴えるが、実は個別のプロジェクトのリスクというのは経営側からみればあまり関心がない。あくまでも経営上のリスクが問題になる。したがって、いくらリスクを訴えても、「しっかりとやってくれ」というのが関の山である。

◆プロジェクト業績評価ポイントを考える

これを防ぐためには、プロジェクトの業績評価のポイントをよく考える必要がある。単に進捗だけを報告していたのでは、このような要求はなくならないだろう。どのような情報をあげればよいかというのは一概には言えない部分があるが、一般的に言えることは時系列データとその分析結果としての傾向と見通しをあげていくことが必要である。

メトリクスとしてもっとも重要なのは、スコープの不確実性に関する指標を導入することである。これはいろいろと工夫の余地がある。残件リストなどもその一つであるし、問題リストなどでもよい。重要なことは、できるだけ現実の状態との時差のない指標を設定することである。そして、もっと重要なことは双方が合意する業績評価指標を確立することである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
目的が明確化されていれば、自然とスコープは決まるもんですよね。
一番厄介なのは目的も手段も決まっていないうちにスケジュールの期間だけ決めてしまう方達です。
あれは何を目安にしているんでしょうかね。
服部半蔵(37歳・システムコンサルタント)