第140回(2007.04.10) 
顧客中心のプロジェクトマネジメント
◆とかく、顧客は難しい

プロジェクトにおいて、如何に顧客との関係を構築するかはある意味でも最も本質的な話であり、また、難しい。顧客とのコミュニケーションがうまくできないとあまたを抱える組織が多いのも、顧客との相互理解ができないということの現われだといえ
る。

顧客との関係構築を難しくしている理由は、プロジェクトマネジメントの考え方そのものにあるのではないかと思う。プロジェクトを中心にしてものを考えるプロジェクトが多い。顧客関係マネジメントの中で、「顧客第一主義」と「顧客中心主義」という考え方がある。顧客の満足を得たいことは同じだ。しかし、立ち位置が異なる。


◆顧客第一主義から、顧客中心主義へ

顧客第一主義というのは、例えば、「お客さまがどのような要求をしてもそれに応える」という考え方である。一見、素晴らしいように見えるかもしれないが、このような考え方は、自分たちが中心、自分本位という前提があり、その中でお客さまに尽くすということが基本になっている。

このような発想でプロジェクトをやっている限り、社内ステークホルダの説得材料にお客さまを持ち出し、結果としてお客さまに迷惑をかけるのがオチだ。

これに対して、顧客中心主義というのは文字通り、お客さまを中心におくということだ。お客さまを主語にものを考える。例えば、お客さまがほんとうに必要としているものを見抜き、お客さまにそれに「気づかせ」、それを提供していく。

海外から家にお客さまを呼んでもてなしをすることを考えてみよう。

人脈を活用し、予め、そのお客さまの好きな食べ物やお酒を調べておき、それをどんどん振舞う。これが顧客第一主義。

あまり出す料理だとかを決めず、お客さまの様子をみながらくつろいでもらえる、日本のよさをわかってもらえるように接客するのが顧客中心主義。最近、ホテル業なので注目されるようになってきたホスピタリティマネジメントの考え方だ。

提供サイドからすれば、当然、顧客中心主義の方が難しい。突然、新鮮な魚を食べたいと言われても日曜日で市場が閉まっているかもしれない。考えようによっては不可能にさえ思える。この議論はいずれする。


◆顧客中心主義の必要な理由

なぜ、このように考えるのか?

ひとつは顧客とプロジェクトでは、プロジェクトの成果物に対するスコープが違うというのがある。ここでよく行き違いが起る。ステレオタイプ的な例を挙げると、携帯電話。

日本メーカの作る携帯電話は「どうすれば売れるか」を考える。だから、使うかどうか分からないような機能をごちゃごちゃつける。最近ではそれに飽き足らず、シニア商品とか言って、妙にシンプルなものを作ってみたりする。これも売るためだけに設計する延長線上にある。

ところが顧客からすれば、購入というのはスタートであってそれから2年なり3年なり使う。当然、評価はそのスコープで行う。つまり、評価視点が異なる。

故障しないとか、メンテナンスが容易とか、電池の耐久性がよいとかは、結構気になったりするものだ。こういうスコープでみると、モノを作って売るという事業の半分くらいはサービス事業になるという説もある。

 サービスという活動を見直す

このギャップを埋めないとプロジェクトとしては成功しない。もうひとつの理由として、顧客要求の不確実性がある。

最初から要求など決められない、作ってみないとわからない、エンドユーザの反応を見ないと分からない、使ってみないとわからない。いずれも、至極、もっともな話だ。

むしろ、ほんとうの価値は、このような状況の中から顧客の中で出来上がっていくと考える方が自然だ。


◆プロジェクトマネジメントにおける顧客中心主義とは

さて、プロジェクトマネジメントの話に戻ろう。プロジェクトマネジメントでも顧客を中心において進めていくというのは大切だ。顧客はエンドユーザとは限らない。商品開発であれば、営業部門がプロジェクトの顧客だってこともある。いずれにしても誰が本当の顧客かということを考え、その顧客を中心にプロジェクトマネジメントを考える。

そうした場合、ほとんど例外なく、顧客側には顧客側のプロジェクトがある。プロジェクトという言い方がひっかればアクティビティがある。例えば、SI企業にシステムを発注する顧客はシステムを使って業務改革をしたり、ビジネス創造をしたりというプロジェクトがある。新商品の開発では、シェア拡大といったプロジェクトがある。

プロジェクトマネジメントのレベルで顧客を中心にするとは、(デリバリー)コスト、スケジュール、品質を顧客がドライブしていくということに他ならない。


◆顧客中心プロジェクトマネジメントに必要なもの

それでは商売にならない商品開発であれば社内顧客なのでまだいいとしても、SIではそんなことをやっていたら商売にならないという声が聞こえてきそうだ。

それは、自分を中心にしてものを考えているから商売にならないのだ。自分を中心にものを考える限り、顧客中心で商売になるはずがない(だから、顧客中心にはなれない)。ゆえに、プロジェクトマネジメント自身を顧客中心に変えていく必要がある。

具体的な方策はこれから徐々に説明していくが、これには3つのポイントがある。

(1)マネジメントオペレーションの強化
(2)プロジェクトマネジャーのリーダーシップの強化
(3)チームの柔軟性

だ。この点を頭に入れておいてほしい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
ユーザー企業での社内システム開発を経験し、現在はSIerに在籍する身です。

顧客中心のプロジェクトマネジメントは理想的だと思いますが、現実的には顧客側の意識が変わらない限り実現は難しいと思います。顧客側の「システム開発はお任せ」という認識が変わらない限り
SIerは顧客の思いつきや我侭に振り回されるだけでしょう。

もちろん、そこかしこで指摘されている悪名高いSIerのビジネスモデルに問題がある事は事実ですが、SIプロジェクトの場合、システムオーナーである顧客の「よきに計らえ」という態度の方が、より根源的な課題だと考えています

私の拙い経験を元に述べさせて頂くと、顧客側が求めているのはSIとしてのシステム開発ではなく、むしろ事業課題の解決だと認識しています。この領域はビジネスそのものになるため、事業主体が戦略/戦術を考案しその手段としてシステムを利用する筈なのですが、何故かシステム開発の課題として扱うケースが多かったです。

# つまり課題の解決と責任をシステム開発プロジェクトに求めているわけです。
# どうやって儲けるか、どのように効率化するかといった課題はビジネス
# そのものであるにも関わらずです。

このような状態の顧客を扱うSIプロジェクトで顧客中心主義を採用した場合、果たして外部の人間がシステムを開発出来るのでしょうか?更に言えばプロジェクトを成功させることが可能なのでしょうか?

私は非常に疑問だと思っています。
(もちろん、プロジェクト開始前の最上流から参加出来れば上記のような状態にならないように努力出来ると思いますが、現在の状況でSIerがその場に参加出来るケースは非常にレアだと思います)
(oldgeese,システムエンジニア(ってどういう意味でしょうね)、34歳)
的確なコメントありがとうございます。oldgeeseさんの意見に共感される方は多いと思います。

顧客中心のプロジェクトマネジメントの実現というのは難しい課題だと思いますし、「答一発○○」のような「スーパーソリューション」がある課題ではないと思います。

その意味で、ご指摘の通りだと思います。

ただ、現状でやれることをすべてやっているとも思えませんし、まったくできる可能性のないことではないとも思います。

例えば、oldgeeseさんのコメントに、「顧客側の意識が変わらない限り」とあります。これは、oldgeeseさん自身、お客さまが変われば可能性があると考えられているのだと思います。顧客中心組織のマネジメントというのはまさに、これを実現するようなフォーメーションを作って、顧客を変えることを狙います。もちろん、それだけでうまく行くような単純な課題ではないですが、いろいろなことをやって、なんとか理想を実現するというのが戦略経営です?がんばりましょう!
好川哲人