第124回(2006.11.28) 
あいまいさを許容する

◆リスク許容度

リスクマネジメントの概念の中に、「リスク許容度」という概念があるのをご存知だろうか?「度」といってもメトリクスというよりはものの考え方に近い。組織や人がどれだけリスクの存在を許せるかだ。前回議論したスポンサーについていえば、スポンサーのリスク許容度が低いと、リスクを潰すまではプロジェクトは前に進めなくなり、結果としてデッドラインを超えてしまうようなことになりかねない。逆にリスク許容度が高いと、イケイケドンドンになり、途中で行き詰ってしまうことになりかえない。このようにスポンサーのリスク許容度が影響はプロジェクトへ与える影響は非常に大きい。


◆プロジェクトマネジャーの資質としてのあいまいさの許容

プロジェクトマネジャーの資質を考える上でもリスク許容度というのは非常に重要であるように思う。言葉を変えるとあいまいな状況をどれだけ許容できるかだ。ここで言っている曖昧な状況の許容というのはものごとを決めないままでいい加減に進めるということではない。決めるべきことはきちんと決める。その中で、決まらないという状況をどれだけ許容できるかだ。

著者の経験では、傾向的にはIT系のプロジェクトマネジャーは曖昧な状況を許容するのが苦手な人が多い。エンジニアリング系のプロジェクトマネジャーは比較的曖昧な状況が許容できる人が多い。ハードウェアとソフトウェアを較べると、やはりハードウエア系のプロジェクトマネジャーの方があいまいさを許容できるようだ。これは扱っているものの性格なのだろうか?

コンピュータしろ、ソフトウェアにしろ、論理的に動く。ところがあいまいさがあると論理的にものごとが構成できなくなる。これが耐え難い。

以前、アジャイル開発の研究会に参加して、多くの人がアジャイル開発を技術的な目的でやりたがっていることにびっくりしたことがある。つまり、技術的なフィージビリティを確認しながら進めていくためにアジャイルは有効であると考えている。そして、多くの人がユーザの要求のブレは歓迎しない。これもやはりあいまいさを許容できないことの現れである。技術的なフィージビリティは自分の手の内で扱っていけるので、あいまいさにならない。これに対して、ユーザの要求変更は出てくることについては対処の仕様がなく、最大のあいまいさだ。


◆技術統合

本当に良いものを作りたければ、プロジェクトマネジャーはあいまいさを許容できなくてはならない。もちろん、プロジェクトにはデッドラインがあるので、ずっとあいまいなままでに進めていくことはできないが、ぎりぎりまであいまいなままで進めていくことが必要なケースが多い。

マルコ・イアンシティ氏という人が書いた本で、「技術統合―理論・経営・問題解決」という本がある。技術統合は、商品開発のどの段階で、利用する技術を確定するかという議論である。当然、決定を遅くすればするほど、商品の競争力が出てくる反面、コストが高くなり、リスクも大きくなる。マルコ・イアンシティ氏は技術統合が技術マネジメントの重要テーマの一つであることを指摘し、この本では、多くの例を引き合いに出し、プロジェクトマネジャー(プログラムマネジャー)の技術統合に対する適切な判断が商品の成功を生み出しているという主張をしている。

さらに、インターネット時代を迎えて、技術統合の判断の重要な要素がユーザになってきたことを、マイクロソフト、ヤフーなどの商品開発例を使って説明している。

このような適切な判断をするプロジェクトマネジャーのもっとも重要な資質があいまいさの許容ではないだろうか?


◆おとなのプロジェクトマネジャーになろう

第119回に
おとなのプロジェクトマネジメント

という記事を書いたが、結局、おとなとこどもの差はあいまいさの許容にあるのではないかと思う。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
「曖昧さ」は非常に奥が深い。いきなり役員からある改革タスク長に抜擢されたとき,ミッションの曖昧さに苦しんだ。例えば「タスクの目的,活動方針,方法の全ては自分で決めて自分で遂行してよい」従わないものがいれば『○○(=当の役員の名前)からの指示である』と名前はつかってよい」というものであった。工場といっても8000人以上の従業員のトップ。ある時,「曖昧さに耐えろ。されど曖昧になるな」と。いまもって,座右の銘の一つとして常にその奥義を究めたいと思っているし,得るところが非常に多い。今回の記事,大変参考になりました。 堀内政信((株)日立エンジニアリング・アンド・サービス,60歳)
体験に基づく、貴重なコメントありがとうございます。「曖昧さに耐えろ。されど曖昧になるな」は本当に深い言葉ですね。この奥義を極めた人こそ、プロジェクトマネジメントの達人だと思います。 好川哲人