第106回(2006.07.04) 
学習する組織に変える(その9)〜学習の前提になるもの
◆前回までの話

97回から、プロジェクトマネジメントの組織能力を向上させる組織学習の進め方について述べてきた。いよいよ、完結。バックナンバーはこちら



◆現場発の改善活動と経営発の改善活動

プロジェクトマネジメントの組織学習を展開する際に、よく陥る落とし穴がある。最後にこの議論をしておきたい。

それは、「今が××だから、○○にしよう」という発想でいいのかという話だ。農業の時代から、日本人には、同じ場所で土壌改善をしたり、品種改善をしながらより生産性を高めるといったすばらしいDNAがある。このような活動をしようとするとまず現状が問題になる。土地の広さも決まっている、気候も決まっている。そのような制約の中で、今年は昨年より少しでもよくなっている、来年は今年よりさらによくなっているというのが目標である。どの程度よくなったかはあまり問題にしないし、労は惜しまず、どれだけ苦労しても改善ができればよしとする。

工業(ビジネス)でも同じような発想で取り組んできた。現場での継続的改善が日本の製造業の特色になった。いわゆるQC活動である。ここでも取り組んできたことは、少しでもよくなるという意味での改善である。1980年代に米国が日本の国際競争力に注目し、QC活動(日本型TQC)を導入しようとしたが、結局、米国のスタイルに合うことはなく、結局、経営戦略からブレークダウンされるトップダウン型の品質管理TQCを創り上げた。トップダウンであるということは、経営戦略から、品質に対しても戦略課題と戦略目標を設定し、それに向かって現場の改善をしていくことを意味している。

興味深いことはこの傾向はソフトウエアのような新しい分野でも発生していることだ。CMMIではレベル4までは現場活動で達成できるが、レベル5は本質的にトップダウンでしか達成しえない改善活動である。日本企業の多くの組織がレベル4でとまっているのはこのためだと考えられる。改善の定義(メトリクス)は現場で自らが行い、その定義に従って継続的に改善が行われていることで満足している。ただし、プロダクトの品質においては、ある意味で「絶対」が存在する世界であるので、過剰品質にならない限り、このようなアプローチも一つの方法である。


◆プロジェクトマネジメントの学習には経営視点のアプローチが必要

さて、前置きが長くなったが、プロジェクトマネジメントの学習に必要なことは、日本的な改善ではない。経営戦略からプロジェクトマネジメントへの要求をブレークダウンし、それをメトリクスに落とし込んで改善活動をしていく必要がある。その際に、現状がどうなっているかは問題ではない。実現性の問題を抱えることになるかもしれないが、あくまでも経営戦略にコミットするのであれば、その経営戦略を実行するには「プロジェクトマネジメントはどうあるべきか」ということを明確にし、それを実現するためには何がどうなればよいかを分析する。その上で、現実とのギャップを分析し、ギャップを埋めていくための策を考え、講じていくというアプローチが不可欠である。

この議論は言い換えると、「理念とは何か」という議論に他ならない。著者は基本的には現場が強いのは大変よいことだと思っているし、理念は現場にとっての理念であるべきだと考えるべきだと思っている。ただ、プロジェクトにおいて「現場とは何か」、「現場とは誰か」ということは十二分に考える必要がある。ほとんどのプロジェクトは組織横断的である。


◆プロジェクトの現場の共通理念は経営から落とし込む

というと、いや、うちの会社はほとんど1部門だけでプロジェクトを作るという反論が帰ってくる。これはプロジェクトチームとプロジェクト活動を混乱している。1部門でプロジェクトチームを作っても、プロジェクト活動はステークホルダを全て含む。その意味で、99%のプロジェクトは組織横断的である。

例えば、SIプロジェクトだとプロジェクト活動には、開発部隊もいれば、営業もいれば、品質管理などのスタッフもいる。製品開発プロジェクト活動には、マーケティング部門もいれば、デザイン部門もいれば、技術部門もいるし、生産部門も絡む。これらのすべてが現場である。

このように組織横断的なプロジェクトで、現場がプロジェクトマネジメントの理念をボトムアップで作っていくことは難しいだろう。現場にとっての理念は、トップダウンで作ることが現実的である。言い換えると、経営からみたプロジェクト、あるいはプロジェクトマネジメントの理念を共有することが必要である。

その上で、その理念を実現する方向にプロジェクト活動に関与する全員がプロジェクトマネジメントの改善への取り組みをしていく必要がある。

これが組織学習である。このことをよく認識しておきたい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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