第2回(2004.05.07) 
概論(後)
 

◆PMOに欠けているもの
 何が欠けているのか?問題の本質の解決である。現在のプロジェクトには多くの問題がある。依然としてQCDの問題も残っている。ステークホルダの要求が厳しくなっている分、従来とは比べ物にならないような問題も噴出している。プロジェクト実行環境はどんどん厳しくなり、リスクがうまくマネジメントできないといった問題も出てきている。さらには、日本では欧米に比較すると異様といえるくらい高かった勤務先へのコミットメントが下がってきて、プロジェクト組織面での問題も見られるようになってきた。また、調達においても、ITだと中国などの海外要員調達、製造業だとサプライチェーンのグローバル化など、プロジェクトマネジメントを複雑化させる要因はますます多くなる一方である。

 このような問題をプロジェクトマネジメントというオペレーションだけで解消しようとするのは本質的に無理がある。今、やっているいることをよく考えてみたい。たとえば、「自分の経験のない仕事を、顧客の準備している範囲のコストで、顧客の言うとおりにやり、利益を出す」といったことを本気で考えているのだ。冷静に考えてみればできないことはすぐに分かる。少なく見積もっても、今、プロジェクトで起こっている問題の7〜8割はこの種の原因に起因している。これを戦略指向に変革していく必要がある。

◆組織能力、ビジョン、事業領域
 まず、自社の組織能力とビジョンを明確にし、その上で、事業領域を明確にし、そこに集中的に資源を投入することにより、その事業分野と組織能力を育て、他者との優位性を持てるようにする。抽象的にいえばこれだけのことだが、これを実現していかなくてはならない。その実現を担うのはいうまでもなくPMOである。

 この部分を経営企画室のような部門に担わせようとしている企業があるが、あまり、うまくいかないと思われる。詳しくはまた、あとの回で説明できると思うが、従来のライン組織は意思決定とオペレーションを分離することを基本原則にしてきた。ところが、現在の経営環境ではこれを分離すると取り返しの付かない遅れを取るようになってきている。つまり、従来のように現場とスタッフ部門というのではなく、企業活動そのものが一つの器の中で行われる必要がある。その枠組みとして注目されているのが、プロジェクトマネジメントなのだ。

◆マンダラ
 プロジェクトマネジメントがこのような目的で注目される理由の詳しいことは著者の自書にも書いているが、要するにプロジェクトマネジメントというのはマンダラ構造をもっており、自己組織化が可能なスキームだからだ。

 いずれにしても、今まではなかったタイプのマネジメントであり、PMOという現場とスタッフが混在した組織を作って行う必要がある。このようなタイプのPMOを戦略型PMOと呼んでいる。

◆PMOの進化
 以上、2回に亘ってみてきたPMOのタイプは、例外はあるが大きな流れとしては進化の流れになっている。つまり、PMOは

 事務局型 → 問題解決型 → 戦略型

と進化してきている。進化しているという意味は、それぞれのPMOは、前のスタイルのPMOの機能も同時に果たしているという意味である。

 このシリーズでは、プロジェクトマネジメントの社内普及を、PMOという視点から議論していく予定である。次回からはしばらく、PMOの抱える問題とその解決について述べる予定である。

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読者からのコメント
PMOに求められる機能はBoss(会社風土が含まれる)であるProjectManagerの特性(スキル/経験/行動・思考様式/職務上のポジション(役職)という変数)と、プロジェクトの形式(新規開発型、中長期研究型、変革型という変数)とプロジェクトのスケール(規模、期間という変数)の組み合わせに依存し、それによりおのずと事務局型、問題解決型、戦略型の形態が求められると考えております。 PMOメンバーはPM経験はMustでありますが、むしろPMセンスが重要で、そのセンスこそが問題解決・戦略策定能力です。

PMの経験だけで通用する時代はもはや、終わりであり、既にPM(PMO)はこのセンスに対する技術と知識と経験を含めて対応することが不可欠なのが現状です。 この辺を認識できずにPMのフレームワークだけで対応を図ろうとする傾向なども感じることがあり、困ったものです。効果の即時性がますます求められるなか、PM展開の変革をこの視点から探求している昨今です。
スクラッグス(S)
かなりの部分に同感です。経験だけでもないし、スキル(フレームワーク)だけでもない。経験を使い、スキルを使うリーダーシップが必要になってきていると痛感しますね。コメントの中のもう一つのポイントは「効果の即効性」で、これが日本の多くの企業をフレームワークに駆り立てているのだと思います。ただ、フレームワークに即効性があるというのは、会社と個人の位置関係に大きく依存します。日本の企業はフレームワークでは動きませんね。即効性を求めるのであれば、PM展開をもっと問題ドリブンにすべきでしょう。PMBOKの導入を図ったけどうまくいかないという企業はたくさん生まれてきましたが、そのような企業の話を聞いても、ソリューションとしてPMBOKを入れる理由が明確な企業にはめったにお目にかかれません。まあ、そんな企業はうまくいっているんでしょうけど、、、 好川哲人

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