第1回(2003.11.05) 
プロジェクトマネジメントブームを検証する
 

◆なぜ、プロジェクトマネジメントブームなのか?
 著者がプロジェクトマネジメントというのを初めて知ったのは、高校の時に、唐津一氏の「システム工学」(講談社現代新書)を読んだときだ。この本は今では手に入らないが、1970年の出版だ。1970年というとどういう年かというと、アポロ11号が月面着陸した翌年である。そして、PMIが設立された翌年でもある。現在、よく使われているPM手法、ツールは、この時点でほとんど原型が存在している。

 そして、著者が記憶する限りでは空前のプロジェクトマネジメントブームである。米国でも90年代に同じようなブームが起こっている。なぜ、30年後の今、このようなブームが起こったのか?


◆戦略の実行手段としてのプロジェクトマネジメント
 答えは明確だ。戦略的経営が行われるようになってきたからだ。いわゆる戦略的な経営では、ビジョンを明確にし、ビジョンを具現化する戦略を策定する。そして、その戦略を計画という形に落とし込み、その計画に従い、経営を行う。

 戦略的経営というと「戦略」にばかり関心がいくが、成功のポイントは戦略の良し悪しだけではない。策定した戦略を実行できて初めて戦略の価値が生まれる。いくら卓越した戦略であろうと、それが実行されない限り、「絵に描いた餅」に過ぎない。

 ここでひとつ分かれ道になることがある。それは、戦略が「少品種大量生産」的か、「多品種少量生産的」的かである。

 戦略が「少品種大量生産」的なものであれば、戦略の実行は、設備の投資と、「経営管理」(ラインによる管理)により戦略は実現できる。ところが、「多品種少量生産」的な戦略であれば、単にラインオペレーションに落とし込んで一元的に管理するだけでは不十分で、もう少し、細かな単位、たとえば、製品群だとか、あるいは場合によっては製品という単位に注目したオペレーションに落とし込んで、それぞれのオペレーションを個別に管理していく必要がある。いわゆるプロジェクトマネジメントである。

 これが、いま、プロジェクトマネジメントが注目されている理由である。


◆現実は、、、

 といいたいのだが、残念ながら、現実はそうではない。

 戦略的経営を標榜しながら、多くの企業は戦略がないのだ。もっと正確にいえば、戦略らしきものはあるのだが、それが、「経営計画」や「オペレーション」と結びついていない。そのため、オペレーションのレベルで右往左往し、多くのプロジェクトが失敗する。

 そこで、「何とかしないとまずい」と考えた。そこで、プロジェクトマネジメントに飛びつき、さらには、プログラムマネジメントに飛びついた。少なくとも、日本のプロジェクトマネジメントブームの正体はこんなところだ。

 当社に限ってそんないことはないと思われるのであれば、次のようなことを考えてみてほしい。


◆あなたの会社ではどうですか?

 経営者であれば、過去1年間に取り組んだプロジェクトに、「お客様の大切さ度合い」以外の理由の優先順位がつけられるか?全部とは言わないが、半分に優先順位とその理由がつけれれば合格だ。

 プロジェクトマネージャーの立場であれば、自分のプロジェクトのメンバーをほかのプロジェクトからほしいと言ってきたときに、納得して出せるか、あるいは、ほかのプロジェクトのメンバーをほしいときに相手のプロジェクトマネージャーが納得する理由をきちんと示せるか?もちろん、「顧客AよりBの方が大切だから」という理由はなしだ。

 もし、そうだとすれば、プロジェクトがうまくいかない理由をもっと根本的に考えるべきだ。ちょっと前まではプロジェクトは人・モノ・時間・金とも比較的余裕のある環境で実施されていた。そのような環境では、プロジェクトマネジメントの仕組みをきちんと導入することは効果的である。導入すれば、多少、資源の制約がでてきてもうまくいく。その意味で、プロジェクトマネジメントに飛びついたのは正しいといえる。

 ところが当然のことながら、これらには限界がある。つまり、時間(納期)にしても、金(コスト)にしても、要求の厳しさがある一定のラインを超えると、プロジェクトマネジメントを導入してもプロジェクトがうまくいかないのは自明の理である。そして、今の経営環境はそこを越えてきている。そこで、複数のプロジェクトを視野にいれて、全体をうまくいくように資源を使っていこうという発想がでてきている。

 これは一見正しいように見える。しかし、単に破綻の時間を引き延ばしているに過ぎないことは容易に理解いただけるだろう。


◆どうすればいいのだろうか?

 このような状況では2004年版のPMBOKを入れようが、P2Mを入れようが、うまくいかない。プロジェクトマネジメントありきで考えずに、プロジェクトがうまくいかない本当の原因を分析し、その上で、何をすればその原因を分析し、その上で、プロジェクトマネジメントが必要なら導入するという発想をすべきだ。

 ただし、冒頭に述べたように、プロジェクトマネジメントが戦略の実行マネジメントである限り、今の日本の企業でプロジェクトマネジメントが有効に機能する企業はそんなに多くはないだろう。

 むしろ、逆説的にプロジェクトマネジメントでマネジメントできるような企業を創っていくという発想で物事を捉えてみるべきかもしれない。

 この連載は、このような問題意識で、プロジェクトマネジメントがどのような経営的課題のソリューションになっていくかということを考えて行きたい。
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