第11回(2003.11.30) 
シナリオでプロジェクトの未来を予測する
 

◆プロジェクトとシナリオ
 プロジェクトマネジメントのフレーミングをするために、シナリオはとても便利である。シナリオという言葉はなんとなくイメージがあると思うが、誤解されている部分も多い。「日本経済再生のシナリオ」といわれると、不確実性はありながらも一つのストーリーを思い浮かべる人が多いだろう。

 シナリオは一つのストーリーではなく、複数のストーリーの集合である。日本経済再生シナリオという場合、規制緩和して市場を自由化するというストーリーもあれば、規制をきつくして、もっと統制された市場を作っていくというストーリーもある。違う視点でみれば、産業構造をサービス・ソフト化し、ハード産業は中国に任せるというストーリーもあれば、社会的に技術開発投資を強化し、卓越した技術を持ってハード産業を再生していくというシナリオもあるだろう。これを全部合わせてシナリオという。

 さて、なぜ、シナリオがプロジェクトマネジメントにとって意味があるかということだが、「シナリオ・プラニング」では

  環境=シナリオ
  意思=戦略

という使い分けをするが、プロジェクトでは同様に

  環境=シナリオ
  意思=計画

という位置づけができる。このように考えた場合、いくつかのシナリオの中でプロジェクトの計画を作っていくことができる。ここで注意すべきことは、

  シナリオ(の不確実性)≠リスク

である点だ。シナリオはシナリオは計画を作る上で、想定する環境を決定するのに効果がある。シナリオは、リスクを最小限に抑えた計画を作ることにその目的がある。

 計画を作るといったとき、多くの場合は、問題解決型の計画を作る。顧客から、コストと納期、そして品質に対する要求があるわけなので、これは当然だろう。すると、リスクは問題解決が思うとおりに行かない可能性になる。

 ところが、プロアクティブなリスクアプローチでは、計画以前にリスクの洗い出しをする。シナリオはこのプロアクティブなリスクマネジメントの有効な手段になる。

 つまり、まず、プロジェクトのシナリオを作り、そのシナリオの下に、計画を作っていくのだ。


◆シナリオの作成手順

 以下では、具体的にどのようにしてシナリオを作っていくかを考えてみよう。m&tでは以下の7ステップの手順でシナリオの策定をしている。

ステップ1:スコープを決める
ステップ2:フレームを決める
ステップ3:情報を整理し、流れを見極める
ステップ4:ドライビングフォースを探し、インパクトを推測する
ステップ5:情報を統合する
ステップ6:シナリオの記述
ステップ7:シナリオのリファイン

 例えば、顧客からシステム開発において、納期とコストについて大変厳しい要求があったとしよう。

 まず、ステップ1では、そのシナリオの範囲を決める。例えば、顧客からの引き合いを断るのか、引き受けるのかによって当然だがシナリオは全然変わってくる。どの範囲でシナリオを作るのかを決めるのがステップ1だ。

 次に、どういう要素に注目してシナリオを作るかを決める。例えば、このケースでは、「技術的難易度」に注目したり、「顧客の協力度」に注目したりすることになるだろう。このような要素を決めることがステップ2のフレーム決定(フレーミング)である。以下では、「技術的難易度」を例にとって話をしよう。

 ステップ3では技術的難易度に関連する情報を可能な限り集める。これには、技術動向もあれば、社内で利用可能なリソースもあるだろう。それらを徹底的に洗い出し、それによってプロジェクトがどのように進展していくかを見定める。例えば、顧客の要求の実現手段の一つにXMLがあったとすれば、XMLを使うとこのプロジェクトはどのように進展していくかを見極めるのだ。

 ステップ4では、その流れの中でポイントになる点(ドライビングフォース)を探す。例えば、

 ・XMLを扱う能力
 ・XMLの情報収集能力
 ・EDIに対する経験
 ・タグ言語に対する経験

がドライビングフォースだと考えられたとする。これらのドライビングフォースを配慮してシナリオをつくることになる。
 ここで、これらが同等に重要でなければ、キーになるドライビングフォースを抽出する。例えば、EDIに対する経験だとしよう。

 ここでは、例として一つの要素だけに注目しているが実際にはステップ2で洗い出したフレームのすべてについて同じような分析を行い、それらの情報を統合する。これがステップ5である。

 スキルの場合には、表現方法が難しいが、ここでは簡単のために大小だとして、大の場合、小の場合にそれぞれ、技術難易度についてどのような影響があるかを考える。小の場合には、技術難易度が大きくなり、それによってプロジェクトが頓挫してしまうようなシナリオが書けるだろう。また、大の場合には、顧客の要求するコストと納期でスムーズにプロジェクトを進めることができるようなシナリオを書けるだろう。これがステップ6である。

 シナリオを書き上げたら、それをリファインしていく。これがステップ7である。

◆シナリオの使い方
 このようにして作成したシナリオを下に、できることは2つある。一つはプロジェクトの最初の段階でのリスクの洗い出しだ。これは特に、ステップ4の中で行われる。
 もう一つは、いくつかできたシナリオのうち、どのシナリオが妥当か、あるいは適切かを評価し、そのシナリオの下でプロジェクト計画を作ることだ。

 著者はシナリオ作成をチームビルティングの手法として位置づけている。もちろん、プロジェクトマネージャーがシナリオを作って、計画を作っていくだけでも有効な手法だが、「起こりうる未来環境のストーリー」を共有することこそ、最高のチームの結束につながると考えているからである。

◆参考文献
西村行徳「シナリオ・シンキング―不確実な未来への「構え」を創る思考法」、ダイヤモンド社

ピーター・シュワルツ「シナリオ・プラニングの技法」、東洋経済新報社
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