第4回(2004.09.28) 
目的の達成に責任を感じ、最後までやり遂げる
 

 プロジェクトマネージャーとしてもっとも重要な行動規範はこれだろうと思う。至極当たり前のことなのだが、難しい。なぜか?フィールドでの経験からいくつか思い当たることを上げてみよう。


◆結果に対する責任

 まず、思い当たるのが、結果に対する責任のなさである。確かに多くの人はプロジェクトマネージャーとしてのプレッシャーは感じているし、その意味で責任も感じている。しかし、結果に対する責任を自覚し、なおかつ、結果に対する責任のある行動を取っている人がどれだけいるかとなると心もとない。

 典型的な例は、プロジェクトメンバーへの指示にみられる。あるメンバーが仕様の決定をめぐって顧客とトラブルを起こしたとしよう。このとき、責任のある行動をするとは、顧客を納得させ、顧客に改めて協力を仰ぐ状況を作り上げることであり、メンバーにそのような指示をすることではない。もちろん、プロジェクトマネージャーがしゃしゃり出て、顧客を納得させるべしと言っているわけではない。方法はメンバーに任せるということでよいのだが、指示をしたら終わりで、後はメンバーの責任だと考えることは間違いだということだ。そのメンバーの行動の結果がプロジェクトに及ぼす影響に対しては、プロジェクトマネージャーが責任を取る必要があるのだ。その限りにおいて、介入することもあれば、担当の交代を命じることもあるかもしれない。

 結果に対する責任を持つ行動を行えるようになるには、システム思考のスキルが重要である。つまり、自分の行動がプロジェクトにどのような影響を与え、その影響に対してどのような働きかけをすればよいかを明確に分析していけるスキルが必要だが、プロジェクトはシステムであるので、これはシステム思考の知識に他ならない。


◆問題への対処

 二つ目の問題は、問題が発生した場合の対処である。ここでいう問題とは、プロジェクトの目標達成の阻害になる出来事である。予め予想していたものであればリスク事象である。この問題をどれだけ迅速に、また、どれだけ適切に処理できるが問題になる。

例えば、開発が始まってみたが、他のプロジェクトのスケジュールが延びていて、要員の調達がうまくできなかったとしよう。

 ここでまず、ポイントになるのは、そのことが目標の達成にどのような影響を与えるかの見極めである。往々にして、このような状況で焦って無理に代替要員を調達し、それが失敗の要因になるケースがある。一方で、プロジェクトの計画というのは、一度作ってしまうと、それが絶対だと考え勝ちであるが、決してそんなことはない。

もちろん、計画以外に実現する方法は考えられないクリティカルなプロジェクトもあるが、多くのプロジェクトの計画はひとつの選択であり、リスクコンティンジェンシーも含めて、代替案があるものだ。したがって、まず、考えるべきなのは、計画を守ることではなく、目標達成の可能性を守ることなのだ。

 さらに、このことは、問題解決の適切さにも密接に絡んでくる。適切な問題解決案とは計画を守る案だとは限らない。コストが絡んでくるので、場合によっては計画を破棄(変更)し、目標達成を守ることが適切な場合がある。例えば、上の問題で、無理に代替要員の調達をするより、プロジェクトのスケジュールを遅らせてしまうほうが目的に適う場合もある。このような例が典型的な例である。


◆ひるまない

 三番目は、目標達成の阻害要因にひるまないことだ。論理的に問題解決をすること自体はそんなに難しいものでもない。思考法、問題解決手法などのトレーニングをある程度積めば、トレーニングの世界では可能になる。しかし、現場ではまったくトレーニングの成果を発揮できないケースがある。困難に直面したときに、まず、ひるんでしまうことが多いのだ。上のケースでも、実際にはスケジュールを遅らせることが合理性があると分かっていても、反対があれば、なかなか、そのような判断はできないものだ。

 それをあえてやるだけの実行力が必要だ。口でいうのは簡単だが、実行するのは難しい。相当に理論的な裏づけを作ることが必要だし、また、経験的な裏づけも必要だ。そういうものが合わさって、自信となり、自分の信じる方向に進めていくことが可能になる。

 また、ひるまないためには、次々に行動を起こしていくことも重要である。一つの手を打てば、その評価を前倒しに行い、プロアクティブに次の手を打っていく。そのような行動ができて初めて、阻害要因にひるまずに進むことができるようになる。

 このためには、やはり、常にリスクを意識していることが必要である。リスクという言葉がピンとこなければ、行動をするときに常にその結果がどうなるかを考えながら行動していく心構えである。


◆この行動特性のために必要なコンピテンシー

 この3つの行動特性は、コンピテンシーとしては成果にこだわるというコンピテンシーであり、

・アカウンタビリティ
 目標達成のための自己の責任を明確に自覚し,結果に対して責任のある行動をとる

・問題解決力
 目標達成を阻害する問題を迅速かつ,適切に処理する

・実行力
 目標の達成を阻害するさまざまな抵抗にひるまず,次々と新たな行動を起こす

が主要コンピテンシーである。こららのコンピテンシーが身につき、

 目的の達成に責任を感じ、最後までやり遂げる

という行動特性が実現される。 

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