第16回(2005.07.27) 
習慣化(6)〜「改善を心がける」習慣をつける

普段からやっているようでプロジェクトの中では意外と難しい習慣がこれである。ライン業務であれば、改善をすることが否定的に考えられることはあまりないし、もし、改善を試みた結果が望ましくなくとも長い目で見たときにはその経験は何かのプラスになることが多い。また、逆にそのようにしていかなくてはならない。

ところがプロジェクトの場合、まず、問題になるのはそのプロジェクトの成果であり、ある意味では手段は問わない。したがって、そのやり方がいくらよいやり方であるとしても、改善をすることが短期的に悪い影響を与えるものであれば、受け入れられない。改善は大小は別にして「変化」である。そのため、目先だけをみれば、パフォーマンスが下がったり、みんなが改善の方法(コンセプト)を理解するまでに混乱が起こることが多い。ここが難しいところだ。

総論としてはそんなところだが、しかし、改善を心がけることは重要である。理由はいくつかあるが、もっとも大きな理由は、改善の影響を注意深く考慮すれば、プロジェクトの成功に大きく寄与するからだ。ここでは、その点も踏まえた改善を如何に習慣化するかについて述べる。


◆改善の習慣による行動イメージ

最初にこの習慣が身につくことによってどのような行動が期待されるかということを確認しておこう。この習慣が身につくと、

自分の行動や、目の前で起こっていることを客観的に観察し、問題(変えていきたい点)を明確にする。それに対して、他のことで経験したことや見聞きしたことを思い出し、それを参考にし、それを改善する方法を考案する

といった行動が期待される。

たとえば、

 プロジェクト報告書の提出が遅れて、すべてが後手に回っている

という状況があったとしよう。つまり、母体組織のマネージャーに適切なタイミングで情報があがっていかないことにより、サポートを求めても迅速な対応が得られないといった問題が発生している。この種の状況はたいてい悪循環になり、ますます、サポートが得られないことにより、プロジェクトが切迫し、報告書が提出がますます遅くなる、内容もお粗末になるという結果を引き起こす。


◆習慣化のツール

ここで行うべきことは、以下のようなチェックである。

 チェックポイント1:変えたい点は何かを考える
 チェックポイント2:自分が直面している問題は何かを考える

ここまではよいだろう。プロジェクトの場合、冒頭に述べた理由により、以下のポイントが特に重要である。まず、考えるべき点は

 チェックポイント3:もし、自分が変わらなければどうなるか

ということを考えてみる必要がある。同時に、

 チェックポイント4:最も重要なステークホルダと、彼に対して与えている影響

について考え、ステークホルダがどのように考えているかを考えてみる必要がある。
さらに

 チェックポイント5:変える際の障害の軽減に何ができるか

を考え、改善策を検討する。その上で最終的には

 チェックポイント6:いつまでに変えることができるか

を考え合わせ、総合的な判断として、その改善案を実施するかどうかを決定する必要がある。ここで重要なことは、結果として、その改善には着手しないという結果になった場合にもリスクマネジメントとして意味がある点だ。


◆ツールの使用例

では、これらのツールを使った検討のイメージを持っていただくためにひとつの例を挙げよう。上の状況を想定してみよう。つまり、

 直面している状況:プロジェクト報告書の提出が遅れ、すべてが後手に回っている

である。

そこで、まず、変えたい点と直面している問題を検討し、

・変えたい点
 プロジェクト報告書を期日どおりに提出する。いつも期限を過ぎて、部長に迷惑をかけている

・自分が直面している問題
 ISOの運用フォーマットが変わって、プロジェクト報告書を書くのに2時間もかかっている。時間が取れない

という結論を得た。次に、「もし、自分が変わらなければどうなるか」を考え、

 プロジェクト報告書の提出が遅れ続ける。部長がプロジェクトの状況をリアルタイムに把握できず、支援が遅れる。ますます、時間がなくなる

ということも分かった。

もっとも重要なステークホルダと、彼に対して与えている影響を考えてみると、部長で、スケジュールに対する不安を抱かせていることに気がついた。

そこで、「変える際の障害の軽減に何ができるか」を検討し、
 報告書の運用で、報告の簡略化を提案する
 プロジェクト報告書を書く時間はきちんと確保する

の2点に取り組めばよいことに気がついた。さらに、いつまでに変えることができるかについては、

提案はすぐにできる。時間の確保は、次のマイルストーンまでの間に優先順位の見直しによって行う

と結論した。これらを総合的に考えて、プロジェクトに悪い影響を与えることなくこの改善は実行できそうだということで、実施することにした。

このように考えていき、プロジェクトの中で、改善を心がける習慣をつけていく必要がある。

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