PMサプリ115:顧客に聴く

【PMサプリ115:顧客に聴く】

「仮説と検証」により初めて「顧客に聴く」ことができる (セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文会長)


【効用】
・PM体質改善
  創造力アップ、計画力アップ、実行力向上、顧客説得力アップ、問題解決能力向上、リスク管理力アップ、
・PM力向上
  チームをまとめる力の向上、ビジネスセンスアップ、リスク対応力向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上


【成分】

◆顧客の要求を聴くとは?

プロジェクトでは、顧客の要求を聞くことを重視する。確かにこれは重要なことだし、プロジェクトの成否の鍵になることは間違いない。また、多くの人は十分に聞いていると感じている。

しかし、結果として、もう少し、顧客の要求をきちんと聞けばよかったと反省することも少なくない。この矛盾はなぜ、起こるのだろうか?

この矛盾を解くカギは、「潜在ニーズ」にある。市場に出す商品はもちろんだが、情報システムのような受注生産型商品においても、この潜在ニーズはある。

市場に出す商品の潜在ニーズはイメージとしてわかりやすい。もともと、見えない規則性などで、文字通り、潜在ニーズである。


◆潜在ニーズを掘り起こす仮説思考

鈴木氏のセブンイレブンでは、オペレーションでアルバイトにも仮説思考を求めるそうだ。たとえば、桜名所の近くにあるセブンイレブンだと、「明日の土曜日は天気がよくなりそうなので桜見物の客が増え、会席弁当がたくさん売れるだろう。だから、お弁当をたくさん仕入れよう」といった仮説立案と仮説に基づくオペレーションを求めるのだ。

そして、実際に仕入れて売る。そこで、仮説が立証されれば「会席弁当を欲しい」という顧客の声を聞けたことになるし、会席弁当はあまり売れないで、ビールとおつまみが売れれば別の顧客の声を聞けたことになり、それは日曜日に向けての仕入れに活かされることになる。

つまり、仮説を立てて行動を起こしたから、顧客の声を聞けたのだ。何も考えずに普段どおりの仕入れをしていたのでは顧客の声は聴けない。

さて、ここで注意すべきことは、天気がよいことと、弁当が売れることの間には明確な因果関係があるわけではない。ひょっとすると、「風が吹けばおけ屋が儲かる」程度の論理成果もしれないが、ここにもう一つ、潜在の意味がある。仮説を立案することにより、顧客のニーズを生み出すこと(あるいは強化すること)ができるのだ。

たとえば、顧客は桜を見たいというニーズを持っていたとする。休日出勤してきて、オフィスで食べるつもりで幕の内弁当を買いにきた顧客が、会席弁当をみて、気が変わって、「土曜日だし、おひるくらいはのんびりと桜でも見ながら外で会席弁当でも食べるか」と変わるかもしれない。このように、顧客自身が潜在的なニーズを持っており、仮説によってそれを掘り起こされることによって購買に結びつくことがある。


◆情報システムでも潜在ニーズの掘り起こしが必要

情報システムのような受注生産商品で、見落としがちになるのはこの潜在ニーズである。顧客ニーズはすべて顕在化されているという錯覚に陥ることが少なくない。このように錯覚してしまうと、コミュニケーションをきちんとすればすべての要求を聞き出すことは可能であると考える。確かに、潜在ニーズを聞き出すのもコミュニケーションの役割であることは間違いないのだが、そのために必要なのは「聞き取り(ヒヤリング)」ではなく、「コラボレーション」である。つまり、顧客の潜在ニーズを掘り起こすようなコラボレーションができて初めて、顧客の真の要求が明確になる。

では、そのようなコラボレーションとはどのように可能になるか?ここで必要なのが仮説である。つまり、「顧客はこういう機能を求めるはずだ」という仮説なのだ。この仮説が立案できるかどうかでプロジェクトの成否は決まる。ただ、誰もがこの仮説を立てることができるかというと、そんなに甘くない。


◆コラボレーションをするために必要なもの

ここで多くの人が想像するのは、経験がないとだめだろうということだ。しかし、著者の考えは違う。確かに、経験は重要な要素なのだが、経験だけに頼ろうとすると、ケガをすることがある。今は少なくなってきたが、「おれはお客以上に顧客のビジネスに精通している」と豪語するSEというのが昔は結構いた。今は顧客とのそのような関わりも難しくなっているが、それ以上に顧客のビジネスの変化が激しくなっている。そこに、ときどき、この顧客のことは俺がよく知っているからと「若いプロジェクトマネジャー」にレクチャーする「元SE」が時々いるが、大体この手のアプローチは失敗する。

では、何が必要か?「顧客の立場に立つ」ことだ。昔のそのようなSEは本当に顧客に入り込むだけではなく、顧客の立場に立っていろいろと考えていた。したがって、顧客以上に顧客の潜在ニーズに気付いていた。これは予算的な余裕があるからできたことで、最近では難しくなってきた。

それはそれでかまわない。しかし、捨ててはならないものまで捨ててはならない。それが「顧客の立場」で考える姿勢だ。顧客の立場ではなく、顧客のために考えるようになってきた。もっとストレートにいうと、予算の許す範囲で顧客のために何ができるかを考えるようになってきたのだ。ここには仮説はない。仮説ありきではなく、結論ありきなのだ。

このようなアプローチが結局、大きなトラブルを招くようになってきている。もう一度、顧客の立場で仮説を作るという原点に戻るべきだろう。

購入はこちらまぐプレバナー